研究実績の概要 |
激しく明滅するフリッカパターンは映像表現としてよく用いられる反面、不快感や光感受性発作を誘発しうる。本研究計画では、視覚情報に基づく不快感がどのように生じるのか、その原因や機序を解明することを目標としている。輝度変調フリッカや順応パラダイムを用いた実験から、時間次元における不快感は振幅スペクトルだけでなく位相スペクトルにも依存することがわかった(Yoshimoto et al., 2017, 2019)。そこで本年度は、視覚の時間周波数特性と不快感の関係を精査すべく、環境光レベルを操作する実験を行った。また、脳内神経伝達物質濃度の測定および脳活動計測を行い、視覚的不快感の神経基盤を検討した。 環境光レベルの低下に伴い、視覚の時間周波数特性はバンドパス型からローパス型へと変化する。異なる環境光レベル下においてフリッカの検出閾と不快感を測定したところ、検出閾は視覚の初期過程における心理物理学的モデルから説明できるが、不快感は説明できず、フリッカの位相構造に依存することがわかった。一方で、初期視覚野における神経伝達物質濃度は興奮性(グルタミン酸)/抑制性(GABA)とも不快感との相関が見られなかったものの、不快感が高いフリッカに対して脳賦活量が上昇する傾向があることを見出した。以上の結果は、不快感の生成には、視覚の初期過程における過剰な神経応答だけでなく、位相構造の抽出に関わるより高次の過程が関与することを示唆する。
|