急性ストレス反応が意思決定に及ぼす影響に関しては,これまで,ストレス負荷直後の検討が多く行われてきたが,近年では数時間後において,直後とは異なる意思決定への影響が報告されている(経時効果)。しかしながら,ストレスによる経時効果が価値評価にどのような影響を与えるかについては未だ不明である。そこで,本研究は急性ストレス負荷後の時間経過に伴う価値評価の推移について検証することを目的とする。さらに,コルチゾールや心臓血管系などストレスに関わる生理反応と意思決定課題成績の関連を検討することで,急性ストレス反応が認知・行動に与える影響の背景にある生物学的メカニズムの解明を目指す。 令和元年度は,急性ストレスの経時効果が利得/損失場面を強調された意思決定においてどのような影響を与えるか,ストレス反応直後のコルチゾール量と報酬随伴性の選択率にどのような関連があるかについて検討を行った。実験参加者は健常な大学生20名とし,ストレス条件と統制条件の2日間,実験に参加した。ストレス条件では,急性ストレスを喚起する標準的な課題であり,面接と暗算課題で構成されるトリア社会的ストレス課題(the Trier Social Stress Task: TSST)を使用した。ストレス/統制課題実施直後,確率学習課題1を行った後,2時間後に再度確率学習課題2を実施した。各課題の前後にはコルチゾール分析のため唾液を採取し,報酬随伴刺激の選択率との関連を検討した結果,ストレス課題直後には利得損失にかかわらず選択率が低下した一方で,2時間後には利得条件でのみ選択率が増加した。得られた結果は,the 49th Annual Conference of the International Society of Psychoneuroendocrinology で発表を行った。今後国際学会への論文投稿を予定している。
|