本研究は、持田栄一による教育福祉の理論と活動に関する社会史研究である。 本年度は、第一に、持田の親の教育権論と国分寺市内でのPTA活動について検討した。その成果は、教育思想史学会大会にて、コロキウム「1970年代教育学の諸相」を共同企画して報告した。この成果は報告共著論文で学会誌に掲載される。ここでは、1970年代以降のPTA関連資料を用いながら、持田の理論の背後にあった、母親たち主体の学習活動や国分寺市教育委員推薦運動が「教育行政への親参加」という意義があったことを指摘した。また持田が亡くなった後の国分寺市内で持田の影響が残っていることも確認した。後者は、当初の計画を超えた成果である。 第二に、理論と実践の関係や保育者のあり方に関する日本保育学会大会での自主シンポジウムで報告をした。ここでは、幼児教育に関わる論文・共著を検討して、持田の「生活者」概念や「専門職としての教師論への批判」の意義について考察した。 第三に、持田の理論と活動の現代的な意義を考察することに関わる教育福祉史研究を進めた。(1)幼稚園教育要領における「公共」に関する学会発表を行った。その成果の一部を含めた「気になる子ども」をめぐる保育実践研究の動向について、1970年代以降の歴史・思想・理論を参照しながら考察して、論文にまとめた。(2)近代日本の幼児教育や児童福祉の代表的な人物と施設について、『保育学用語辞典』の項目を執筆した。子どもの救済の歴史に関わる論文集の書評を執筆した。 全体を通じて、持田の理論と活動が1970年代にどのような展開をみせるかを把握できたが、十分に論証できていない点もある。同時代の思想や活動、あるいは近現代の教育福祉史についての研究成果を通じて、持田の理論と活動の意義を考察するための基盤を構築することができた。
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