研究課題/領域番号 |
17K13976
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 智輝 東京大学, 大学総合教育研究センター, 特任研究員 (60780046)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 政治教育 / シティズンシップ教育 / 教育哲学 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる平成29年度においては、教育と政治をめぐる今日的状況の有する問題と可能性を考察する際に、 ハンナ・アレントの近代教育批判がどのような視座をもたらすのかを明らかにすることを主な課題とした。こうした課題に対して、本年度においては、以下の2つのアプローチを通じて検討に取り組んだ。 第一に、、彼女の主著である『人間の条件』における近代批判と 『過去と未来の間』に所収の論文「教育の危機 」で展開される教育論との関連についての検討を行った。こうした検討を通じて、彼女の近代教育への批判は、『人間の条件』において展開されている世界疎外をめぐる議論から派生したものとして捉えられることが明らかとなった。こうした解釈に立つならば、アレンントの政治思想と教育論との結節点とみなされてきた「出生」概念についても、その導出過程に世界疎外をめぐる洞察がいかに関わっていたのかについても問い直されることになるだろう。なお、こうした検討の成果の一部は2017年10月に開催された教育哲学会において「H.アレントにおける近代教育批判の射程」と題した研究発表として公開した。 第二に、アレントの教育論について、その基底をなす彼女独自の時間論を明らかにすることに着手した。具体的には、アレントがカフカやベンヤミンの時間論を手がかりにしつつ、彼女独自の時間論をどのようなものとして提示したのかを明らかするとともに、そうした時間論がアレントが教育を過去と未来の間でなされる営みとして捉える際の基底となっていることを指摘した。こうした検討の成果は、「「世界」の更新と継承に向けた「過去への態度」ーH.アレントによる近代教育批判の時間的次元に着目して」と題した研究論文として公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H. アレントの近代教育批判の再検討と、その今日的意義を対象とした本年度の研究課題については、当初の計画にそって検討を進めることができた。検討を通じてより発展的な課題も明らかとなった一方、当初は二年目に予定していた時間論についての検討を進めることができたため、それにかわって本年度の見出された新たな課題について次年度に取り組むことができるものと想定している。また、本年度に得られた成果の一部は、すでに学会での研究発表および研究論文として公開することができた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目にあたる平成30年度においては、前年度の成果をふまえて、ハンナ・アレントにおける「出生」概念の導出過程の再考を課題としたい。検討にあたっては、「出生」概念の導出過程において彼女の世界疎外への洞察やその根底にあるマルクスおよびマルクス主義への批判がどのような関わりもっているのかを明らかにすることを課題としたい。こうした検討を通じて、近代教育は世界疎外の過程といかに結びつきながら危機を内包することとなったのか、そうした危機においてあらわになる教育の本質とは何であり、それは今日の教育においてどのような意義を有するのかについての考察に向かいたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画において予定していた海外出張が国内での学会発表の時期と重なり、再調整が困難であったため次年度以降に延期することとなった。一方で、次年度に予定していた文献の収集とその検討を先行して着手したため、本年度の当初の予定よりも資料収集にかかる予算を多く計上することとした。しかし、そうした変更の過程で若干の予算の使用を次年度に繰り越すこととなった。
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