本研究では、子どもたちと素材とのかかわりに着目した分析に基づく、研究者と保育者の協働による素材環境づくりが、どのように子どもの創造・表現の支援へとつながるかについて検討した。具体的には、アクション・リサーチ的手法を用いて、研究者と保育者が協働で、保育者が教育的な働きかけが期待されていると感じる子どもの捉えに基づいて、教育的意図を環境に埋め込み、どのように「その子」の表現の過程に応じた環境構成ができるかを検討した。その結果、目的やイメージを周囲にあるもので確かめながらつくりたい子どもには、 「落ち着き」「イメージの生成と保持」「素材との出会い」を目的とした環境構成が重要であるという仮説が支持された。 本研究の重要性は、第1に、幼児と素材との間のかかわりを詳細に検討したことである。幼児期の創造・表現は、従来、個人の内的表出とみなされてきた。しかし、幼児がモノと出会う過程を、言語的・視覚的・身体的なかかわりに着目して分析することで、 物的・人的環境との相互作用で生み出される表現について明らかにした。第2に、実践の改善に資する、具体的な素材環境のあり方を提案したことである。幼稚園教育要領や保育所保育指針にあるように、日本の保育は「環境を通して行う教育」を基本とする。このことを踏まえ、保育実践の分析結果に基づいて保育現場の環境を変えるアクション・リサーチを行うことで、実践の改善に資する具体的な素材環境のあり方を提案した。第3に、アクション・リサーチにより、保育者と研究者が協働して素材環境について考え、改善することで、保育者の教材研究や環境構成に関する意識の変容が生じたことである。
|