本研究全体の目的は、子どもの「意味の討議」の質的発展モデル案を作成し、その妥当性を検証することであった。そのなかで2019年度は、モデル案を日本での授業研究に照らして検証することが目的であった。 2019年度の研究実績は以下の通りである。 第一に、ドイツでの理論研究の成果をふまえて作成された三つの水準の授業イメージと、意味構成の理論とに基づいて、日本での授業研究をおこなった。その結果として、授業の3つの水準と結びつく参加のイメージが明らかになった。ドイツでの研究においては第三水準の実践は現実的に観察されていないことも指摘されたが、日本での授業研究においては、教師の想定を超えた学びの本質へと向かう、第三水準とも言える授業の契機に出会うことができた。 第二に、その第三水準の授業が、教師の指示の単なる後追いではなくて、子ども同士が意味を構成したやりとりをするなかで生じうるということが確認できた。とりわけ、学習方法に関する一定の裁量を子どもが持つことで、意味の構成が促される様子も見られた。その一方で、意味構成や参加の概念が、教科の論理の深まりや系統性とどのような関係にあるのかを体系的に示すまでには至っていない。 以上のことから、全体の目的および2019年度の目的としての意味構成や意味の討議の質的発展モデル案の開発・検証・改善は、おおむね達成されたと言える。しかしながら、このモデル案に照らしての実践検討の数が少なく、その点で課題が残っていると言える。
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