研究課題/領域番号 |
17K13999
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研究機関 | 川村学園女子大学 |
研究代表者 |
中園 有希 川村学園女子大学, 文学部, 講師 (30758347)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教科書 / 初等学校 / コンピテンシー / インクルージョン / 分化 |
研究実績の概要 |
2018年度は、①1990年代以降のドイツで発行された代表的な初等学校教科書、教師用指導書(ドイツ語、算数、事実教授)及び関連論文の収集、②収集した教科書及び資料の分析、③学会における成果の発表を実施した。 ①については、ドイツ国立図書館(Deutsche National Bibliothek)ライプツィヒ分館において、1990年代に発行され、現在も版を重ねている教科書シリーズ(『Das Zahlenbuch』[算数]、『Buecherwurm』[ドイツ語、事実教授])とPISAショック以降に発行された教科書シリーズ(『Zebra』〔ドイツ語、事実教授〕、『Niko』[ドイツ語、事実教授]、『Mathefreunde』[算数]、『Lesefreunde』[ドイツ語]、『Sprachfreunde』[ドイツ語])の双方を概ね各版4学年とも収集した。 ②については、収集した教科書を質的に分析した。そこで明らかになったのは、各教科書がその編集コンセプトにかかわらず、教育スタンダードを積極的に引き受けており、とりわけ教科書の教授学的機能のうち「分化」機能について新たな展開がみられるということである。とりわけ分化が早期のトラッキングを含む学校教育制度や3段階のコンピテンシー設定と強く結びつくことによって、初等学校教科書が暗黙の選抜装置として機能し始めている。「インクルージョン」を意識した教科書の編纂も相次いでいるが、そこにおける学習課題の真正性には大きな課題がある。 ③については上述の成果を含む進捗状況を学会において発表し、有意義なコメントを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドイツ国立図書館における初等学校教科書の幅広い収集を通して、1990年代から現代に至る教科書の比較分析を行う基盤を整えることができた。また、教科書におけるコンピテンシー概念の受容に関して、「インクルージョン」と「分化」という2つの分析概念を設定することによって、通時的な分析を行う見通しを立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従いつつ、2019年度においては、とりわけ収集資料の分析と研究成果の発表に重点を置く予定である。とりわけ、2000年代以降のドイツの初等学校教科書において、1960年代以降の同国の教科書が目指した「ワークブックとしての教科書」の在り方がどのように変化したのかについて、検討を進めたい。国際学会における発表も行いつつ研究成果をまとめ、論文として発表する。 研究遂行上の課題としては、2018年度のドイツ国立図書館における資料収集の過程で、図書館に所蔵はされていても、保存状態との関係から閲覧が困難な教科書があることが判った。これらの教科書を入手したうえで分析に取り入れるかどうかについて判断が必要になると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の二点である①ドイツにおける資料収集の実施の際、交通手段等を工夫するこにより、旅費を当初予定より安価にすることができた。②過去に発行された教科書の調達について、古書による購入ではなく、コピーによる収集のほうが合理的であることが判り方針を転換した。 次年度使用額及び2019年度助成金は、①収集対象となる教科書及び図書の購入、②ドイツにおける追加の資料収集の際の旅費及び複写費、③国際学会への参加旅費として使用したいと考える。
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