研究課題/領域番号 |
17K14002
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研究機関 | 金沢星稜大学 |
研究代表者 |
大畠 菜穂子 金沢星稜大学, 教養教育部, 講師 (70727859)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 教育行政 / 教育委員会 / 教育長 / 教育委員会事務局 / 委任 / 専決 / 責任 |
研究実績の概要 |
本年度は、教育委員会組織内部の権限と責任を明確化するため、各自治体(政令市、中核市、県庁所在市)の事務委任規則と議事録を用いて、教育委員会の事務の執行方法と教育委員会が実質的に責任を負う領域を考察した。とくに昨年度議事録の公開の遅れ・漏れが確認された自治体についてもその公開をふまえて分析対象に含め議事録分析を行った。その結果、次の点が明らかとなった。 第1に、教育委員会の事務委任規則は自治体によって多様であるが、一般的な教育委員会の留保事項としては「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」25条2項で列挙されているものに加えて、教科書の採択、文化財の指定、通学区域の設定などが多くの自治体で確認された。これに対して教育長の専決事項は少なく、一部職員の任免、軽易な規程・訓令の制定改廃、一部の附属機関の委員の任免に関する業務などに限定されていた。 第2に、教育委員会会議の議決事項はいずれの自治体でもかなり固定化されており、規則・規程の制定改廃、議会議案についての意見の申し出、附属機関の委員の任免、教職員の人事に関するものが全体の8割程度を占めた。事務委任規則上は、教育委員会の留保事項が自治体間で多様であるにもかかわらず、実際の会議の議決事項はルーティン化した状況にあることを実証的に明らかにした。 第3に、このような事務委任規則と会議の議決事項の齟齬がなぜ生じるかという点について、自治体関係者への聞き取り調査を実施した。それにより、教育委員が非常勤職であるために合議体の教育委員会が担うのは極めて一般的な方針となり、その後の方向づけは教育委員会事務局が全てを担当する形になっていることが大きな要因であることを確認できた。 以上、事務執行方法に着目して教育委員会が責任を負いうる領域を明確化した。これをふまえた教育委員会の法的責任の発生要件の解明が残された課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、議事録分析の情報を補完するための自治体調査がかなわないなど研究計画の一部変更が必要となった。その間、他の合議制執行機関の近年の改革動向や海外の事例を考察し、本研究を補ってきた。今回研究期間を延長することで、より精緻な分析を行えるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる次年度は、以下の作業を行う。まず、本年度実施できなかった自治体への調査については、今後の感染状況をふまえながら、調査の可否を見極める。対面での調査がかなわない場合は、代替方法としてオンラインもしくは質問紙による調査を実施する。それをふまえて、教育委員会の事務委任規則と議事録の分析結果のとりまとめを行う。 次いで、判例データベースを用いた教育委員会の法的責任の分析を引き続き実施する。私法の領域では、近年、学校法人をはじめ理事会の監督機能と各理事の責任を明確化する法制化が進められてきた。こうした動向もふまえながら、地方自治体の執行機関である教育委員会の責任の在り方についてモデル化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大により研究計画の変更が生じたため、研究期間を延長して次年度に持ち越すこととなった。教育委員会の法的責任の在り方を検討するためには、私法の領域での研究成果や海外文献の収集がさらに必要であることから、最終年度にあたる次年度は、自治体調査の実施費用に加えて、文献収集費用、最終報告書の作成費用を中心に使用することとする。
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