2019年度は、(1)ドイツでの調査で得られたインクルーシブ授業のカリキュラム編成の理論と事例について分析検討し、(2)日本におけるインクルーシブ授業のためのカリキュラム編成の課題について検討する計画であった。 (1)ドイツで「多様性の教育学」の要件とされている承認論の観点から、ベルリンのインクルーシブ重点校における障害児と定型発達児の共同学習の事例を検討し、学会で成果を報告した。報告した事例のうち、算数の授業では、異学年での共同学習のために教師が幅広い学習段階の子どもが参加できる場面と、個別に難易度の異なるプリントを使った学習の場面とを使い分けていたことを検討した。異学年で同一内容に取り組む場面では、例えば「計算→答えの分類→電子黒板の操作」という活動において、それぞれの発達に応じた学習を組み合わせて協力してできるような課題が設定され、子どもたちが自己と他者のわかり方や学習進度の違いを認識したうえで、自身と他者が活躍できる場面を見いだしていた。その結果、子どもたちの相互承認を促す授業展開となっていた。また、成績評価では複数の教員の視点から観察した個々の子どもの成長を文章で記録していた。 (2)では、上記の結果を踏まえ、日本の公立小学校の複式学級の算数の授業事例を参考として、我が国の教育課程制度のもとでインクルーシブ・カリキュラムを開発するための要件を検討した。研究計画では、研究協力校において教材研究から授業実施までのプロセスへの参与観察や学校での授業研究を行う予定であったが、所属大学の出張申請手続きの際に研究協力校からの「講師派遣依頼」が無ければ「研究調査」では出張できないと伝えられたため、科研費を使用して調査に出る機会が限られてしまった。そのため、文献や資料の分析を通した実践的な課題の整理を行った。これらの内容は、今後論文・図書等で発表する予定である。
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