本年度は先行研究と一次史料の調査を行い、以下の文献を収集した。 1.昭和初期における西条尋常高等小学校の「研究会記録」を収集した。 2.中国地方5県の各県立図書館において、「教育会雑誌」を収集した。 3.合理的体操(桜井式体操)に関する史料を収集した。 本年度は、山口県吉敷郡嘉川尋常高等小学校の体操教育を検討し、同校が「合理的体操」をどのように受容していったのかを明らかにした。その成果を中国四国教育学会で口頭発表・論文投稿を行った。山口県吉敷郡においては、体育振興が郡の教育施策の一つとして位置づけられ、体育衛生の改善や体育設備の設置が奨励されている。郡視学が主導した体育視察では、生理学・解剖学的根拠に裏づけられた合理的体操が吉敷郡に受容され、熱心な学校や教員によって体育研究が盛んに行われた。当初、嘉川小は児童の身体動作が芳しくなく、運動場の広さも十分とは言えない状況であり、必ずしも体操教育に適した教育環境ではなかった。それゆえに嘉川小ではいち早く合理的体操を可能にする器機の整備に努め、教員一丸となって体操に関する研究会や実技研修会などを実施し、桜井恒次郎(1872-1928)から直接指導を受けるまでに至った。体操先進校とされた公立小学校は、当初から体操教育の環境に恵まれていたわけではなく、各地域や児童がそれぞれ抱える独自の課題に対応を迫られる中で、試行錯誤を重ねながら体操教育実践を創造していったと考えられる。
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