本年度の研究では、岡山県倉敷尋常高等小学校(以降、倉敷小と略記)の教育研究に焦点を当てて、同校が奈良女子高等師範学校附属小学校(以降、奈良女高師附小)との研究交流を図るなかで、低学年教育の基盤となる「合科学習」を実践していたことを明らかにした。倉敷小は奈良女高師附小との研究交流を図りながら、低学年教育の基盤となる「合科学習」を展開した。その中心的な役割を担った訓導の大橋源十郎(1894-)は、奈良女高師附小への視察や講習会参加を通して、「合科学習」の理論や実践を受容している。倉敷小では、大橋を中心として「合科学習」の研究が積み重ねられ、同校主催の全国初等教育大会において研究発表が行われていた。大橋の「合科学習」実践は、児童の生活に身近なものを題材としながら、遊戯的な環境を組織することで、児童の興味関心や活動性をできるだけ引き出す方法がとられている。「キク(菊)」を題材とした実践では、児童自らの興味に沿って、文章表現や数量的表現、図画表現、手工的表現物の製作などが行われた。一方で、国定教科書の取り扱いについては、使用するという方針を堅持しており、公立小学校でも実現可能な「合科学習」実践が取り組まれていた。なお、明らかになった知見については、中国四国教育学会第71回大会(松山大学、2019年12月1日)で報告を行ったほか、同学会の学会誌(教育学研究紀要)に投稿して、研究成果を公表した。
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