本研究では、Fesmire(2010)、Dewey(1938)、Ingold(2010)らの議論を応用し、「生きているものどうしのつながり」への想像力の深化と拡張を中心とした、生成発展的なカリキュラムに基づくESD実践理論を構築した。幼児は、生活のなかで自然やモノなどの身近な環境と、「生きているものどうし」として出会う際に生態想像力を発揮している。一方、保育者はそのような偶然の出会いの場のなかで子どもと共に生態想像力を働かせ、また想像力の方向性を省察することによって、ESDの実践を行っていく。幼児が保育者と共に環境と出会うなかで、「生きているものどうし」のつながりのリアリティが、目の前にあるものから、目の前にないものへと広がっていく過程が生じていく。このことを“「生きていること」の共有としての教育”として理論化した。これまでの日本の幼児教育・保育でも自然体験や文化的体験は重視されてきたが、保育者や幼児の「生態想像力」は、そのような体験のなかで出会う身近なものが、実は複雑な「生命の絡み合い」のなかで存在しているということに注意を向け、保育者や幼児の知覚や思考、行動を変容させていく契機となっているという点で、本研究は日本のESD研究に新たな視点を提供するものである。 以上の生成発展的なカリキュラムを展開していくためには、身近な環境との出会いにおいて幼児と保育者自身がどのような生態想像力を発揮しているかを省察することが必要になる。そのための実践ツールとして、本研究では生態想像力を「線」として描き、マップ化する手法を開発した。本実践ツールは、生態想像力の理論と保育実践を接続する上で重要な位置づけをもつものであるが、理論との整合性や実践的な使いやすさの点で改善の余地を残している。保育実践者との協働のなかで、さらにツールを洗練していくことが今後の課題である。
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