近年、学校教育の現場でも伝統芸能や民俗芸能の教授がおこなわれるようになったことから、芸能の継承をめぐる状況も大きく変化している。また、今日、学校という場は、地域社会との連携が強化されたことによって、より地域社会の影響を受け、 学校教育のあり方自体も急激に変化している。同時に、そのことは、地域社会の解体や再編あるいは 統合といった出来事も学校教育に大きな影響を与えることを意味する。たとえば、東日本大震災以降、 被災地の民俗芸能の保存と継承に関わる課題が、学校のなかにも持ち込まれるようになっている。本研究では、文化的アイデンティティが複雑に交錯する場としての学校に着目し、学校と地域の相互行為から生成する民俗芸能の実践を考察に据えながら、民俗芸能の継承をめぐる議論をより発展的な視点から検討を行った。 東日本大震災で被災した宮城県山元町では、地縁・血縁といった帰属性を問わない学校という場と地域社会との関わりの中で、民俗芸能の実践を通じ、新たなコミュニティが形成されている。こうして形成された新しいコミュニティでは、学校や民俗芸能保存会、あるいは教えられる立場にある児童といったさまざまなアクターが、それぞれの所与の機能や役割を超えて、相互に影響を与え合い、また干渉し合う様子が観察された。また、学校、保存会などのアクターの相互行為が、お互いの芸能に対する意識を変容させ、民俗芸能の担い手や関係者のレジリエンスを引き出すという状況を生み出していた。
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