学位や資格など高等教育を含む教育訓練機関から生み出されるあらゆる「qualifications(資格)」について、その保有者に期待するコンピテンスの内容や水準を 明確化し、さらに学術・職業モビリティの促進などを図る「国家資格枠組み(National Qualifications Frameworks:NQF)」が、現在、世界的に拡大している。一方で、その背後にある政治社会的課題や運用の実態については明らかにされているとは言い難く、NQFを有しない日本において策定の是非を議論する根拠情報が十分に揃っていない。本研究は、NQFに関する国際的潮流と課題を整理することを目的に、特に欧州職業教育訓練開発センター(CEDEFOP)のNQFに関する資料分析を行うとともに、担当者とのヒアリングを通し、現行NQFの策定プロセス・枠組み・活用状況を分析し、運用の課題を明らかにした。NQF活用の多様なパターンを明確にするため、特に米国・ドイツ・アジアなどの他国の事例についていくつか整理を進め、NQFに期待する役割や機能における国による違いを分析した。また、本研究の焦点となるフランスのNQF(RNCP)については、特に非職業系の学問分野と労働市場との接続に社会的ジレンマを抱えるケースを取り上げ、NQF策定の歴史的経緯や枠組みの内容、大学教育と職業とを結びつけるコンピテンス策定に係る社会的合意プロセス、教育プログラムの質保証に関する大学評価での活用状況や課題などを明確にし、学術・実践の両面から日本版NQFの策定可能性に関する議論に資する示唆を得た。成果は著書(分担)にまとめるとともに、学会や講演会においても発表した。
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