研究課題/領域番号 |
17K14034
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
細川 太輔 東京学芸大学, 教育学研究科, 准教授 (70738228)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | デザイン・シンキング / 国語教育 / 話し合い |
研究実績の概要 |
本研究で2019年度達成されたことは以下の3つである. 1つ目は全国大学国語教育学会水戸大会でを発表をしたことである。2018年度に6年生に対象に行ったマシュマロ・チャレンジの実践を分析した。マシュマロ・チャレンジとは4人組で協力してパスタで塔を作り、その上にマシュマロをのせて高さを競うゲームである。その中で、話し合って一つの結論をだしてからマシュマロタワーを作るのではなく、作りながら考えたり、分岐して進んだりする姿が見られたこと、そのような新しい話し合いの形が生まれる可能性があることを提案した。 2つ目はその口頭発表を加筆修正し、査読付き論文「デザイン・シンキングの考え方を導入した話し合い」を東京学芸大学国語教育学会研究紀要に投稿し、掲載された。そこでは話し合って終わりではなく、話し合った結果どうであったかを分析し、話し合いに戻るという話し合いと制作の往復の重要性を主張した。 3つ目はアメリカに視察に行ってデザイン・シンキングの動向を調査してきたことである。デザイン・シンキングの中心地であるスタンフォード大学近辺のBullis Charter school,Philips Brooks school,Ventana schoolでは児童・生徒は決まった教科内容を学ぶというよりは、自ら新しいものを生み出すというデザイン・シンキングの考え方を取り入れた実践を幅広く行っていた。またスタンフォード近辺だけではなく、独自の発展を見せているサンディエゴのIdeath schoolやその校長が研究しているUCSDのthe Design Thinking Education Centerを視察した。そこではデザイン・シンキングをイノベーションの方法だけではなく、学校運営など組織づくりの哲学として取り入れている様子を視察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究については順調に進んでいる。その理由は3つ上げることができる。 1つ目はデザイン・シンキングの考え方を取り入れる効果についてある程度見通しがついてきたことである。通常の国語科の話し合いでは理由や根拠を述べ、一つ一つを検討し、single right planを決めるところで話し合いが終わっていた。しかし、実際の新しいものを生み出す話し合いではそのようなことは行われず、とりあえずやってみるであるとか、一つに絞って進むのではなく、それぞれがやってみてその中でもっとも見込みが良さそうなものを選んでいくなど、国語科教育の話し合いとは違った話し合いが行われていた。新しい時代に合う話し合う能力を子どもたちに育成する必要性があることが明らかになった。その点から国語科教育の話し合いについて再考する必要が見えてきた。 2つ目はデザイン・シンキングの発想を取り入れて、ものづくりではなく、より国語科の話し合いに近い形の実践「遊び開発プロジェクト」を行った。対象は小学校5年生である。この実践は修正されて小学校国語科の6年生の教科書に掲載されており、国語科の実践として受け入れやすいと考えた。本実践では5年生が1年生と一緒に遊ぶ新しい遊びを開発するという目的で、試しに遊びながら話し合う姿が見られた。全ての班の記録をビデオでとり、会話をトランスクリプトに起こすところまでは終了している。 なんとか休校になる前に実践を行うことができたが、その中で思ったようなデータが取れない場合もある。その際は何がその原因なのかを分析して、実践上の課題があれば実践を修正し、発達上困難であるのであれば学年を変えるなどして次の実践を考えていくようにしたい。研究方法上の課題であればその問題点を分析して明らかにした上で修正し、2020年度再調査を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策について3点ある。 1つ目は2020年に行った実践のデータをもとに分析をし、学会発表や投稿論文にまとめることである。具体的には2つの方法で分析を行う。1つ目は児童の質問紙の分析である。全児童にどのような力がついたと思うかを自己評価する質問紙調査を行い。その中で有意差がでたものを明らかにして学級全体の変容を明らかにする。2つ目は各班のビデオから見た話し合い方の変容についての質的調査である。話し合いが進むにつれて理由を言うよりも、試しにやってみようという試行の方が効果的であると児童が認識して話し合いが変わっていく様子が明らかになればと考えている。当然うまくいった班とそうでない班があると考えられるので、うまくいった班ははぜうまくいき、そうでない班は何が原因でうまくいかなかったのかを質的に分析していきたい。 本来であれば5月の学会で発表する予定であったが、コロナウイルスの混乱もあり、発表するのを取りやめた。秋に全国大学国語教育学会で発表をし、それをもとに急遽修正し、投稿論文にする予定である。ここではマシュマロ・チャレンジというものづくり中心の話し合いと遊び開発プロジェクトのような話し合いで同じような話し合いが行われるのか、また異なるのであればどのような点が異なるのかを明らかにし、今後の実践の開発につなげていこうと考えている。 2つ目は再調査をすることである。先にも述べたようにこの調査で問題点があればそれを明らかにし、再調査を行う必要がある。しかしコロナウイルスの混乱でそれが現実的に可能なのかは不明である。いずれにせよできる範囲で再調査が必要であれば実施し、データを取る必要があろう。 3つ目は報告書の作成である。3月末までに報告書を作成し、研究成果を公表することを考えている。具体的には印刷して学会等で配ることを考えている。
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