研究課題/領域番号 |
17K14039
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
福富 彩子 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (90549388)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 演奏指導法 / 身体メソード / ディスポキネシス / ピアノ演奏法 |
研究実績の概要 |
豊かなピアノ演奏表現を行うためには巧緻運動と呼ばれる指先の細やかな運動能力が不可欠である。そこで、本研究は、演奏家のための身体メソード「ディスポキネシス」を従来のピアノ演奏法に援用し、有効な指導プログラムを提案することを目的とした。 1年目は、ピアノを専攻する学生を対象に、質問紙・インタビュー調査を行い、ピアニストが抱える身体的な課題を抽出した。速いパッセージや連続するオクターヴ等の技巧性が求められる場面や、音楽の表情を決定づける音量や音色のコントロールに課題を感じているケースが多数確認できた。 次に、身体運動と演奏表現との関係を理論と実践から学習する事を目的に、ディスポキネシス認定有資格者による講座を開講し、基本的な巧緻運動能力を習得・維持する為の練習法としてディスポキネシスの「フィンガー・メソード」を紹介した。対象者は、その練習法をより有効にする為の「補助的な動き」を複数実践し、各実践前後の演奏に対して自己評価を行った。 自己評価と指導者による観察の結果、対象者は、指先に意識を集中させると同時に全身の不要な筋収縮を減らす事を目的とした実践後の演奏において、鍵盤へのタッチが安定し、音色が明瞭になる等の変化が見られた。また、手の平全体で膝や鍵盤をなでる動きや、点字を指先で触れたりなぞったりする実践後には、各指がより独立して打鍵する感覚が掴める等の変化が見られた。 高い演奏技術が求められる場面では、腕や体幹に不要な筋収縮が発生しがちである。それが指の独立した運動を阻害する要因となっているため、各指先の感覚を分離させる練習と同時に全身の不要な筋収縮を緩和させる事で、結果的に、指1本1本の独立した運動能力が高まるものと推測された。 これらの調査結果をふまえ、2年目は、被験者10名に、有効性の高いと考えられる「補助的な動き」の実践とピアノ演奏による実験を行い、結果の検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況として、1年目は、H29/4月に倫理審査承認後、ピアノを専攻する大学生と大学院生の被験者6名から研究倫理の承諾を得て、研究に着手した。H29/5月:被験者にアンケートによる意識調査、H29/7月・H30/2月(2回)専門家による講習開催、実施前にインタビュー調査、実施後にアンケート調査を行い、観察・評価のポイントや「指導プログラム」について専門家からの助言を得た。並行して、従来のメソード研究に関する調査を行った。 1年目に行った予備的調査(質問紙調査・インタビュー調査・被験者の演奏記録・エクササイズ実践前後の演奏に対する自己評価・指導者の客観的評価等)に基づき、演奏に不要な筋緊張を緩和する練習だけではなく、演奏時に楽器に伝達すべき必要な力を使える条件をつけつつ不要な筋緊張の緩和を同時に行う練習が有効であると考察した。 2年目は、ピアノ演奏歴15年以上を有する被験者10名に対して、有効性の高いと考えられる「補助的な動き」の実験と検証を行った。H30/4~5月:1年目の研究まとめと研究報告、H30/7~10月:有効な手法抽出、H30/9月:学会発表及び専門家の助言・実験内容の検討、H30/11月:被験者への説明会、H30/12月~H31/1月:実験の準備(資料・動画等の作成)、H31/2月:実験、H31/3月:実験結果の分析を行った。 上記のように、ピアノ演奏における課題の抽出とともに、課題への有効な手法を抽出して実験・検証を行うところまで至っている。一方、今回の実験においては一時的な効果を確認できたものの、今後、研究者自身が一定期間介入した指導プログラムの実施と指導前後の評価を行い、横断的な視点からも手法の有用性を確認する必要を感じている。今後の課題として、実験結果を踏まえた指導プログラムの作成及び教育現場での実践と再検証が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究3年目は、2年間の実践・分析結果から得られた有効な手法を精査し、学会にて成果の報告を行う。また、教育現場での実践と検証を繰り返し、メソードの改良・改善を図り、ピアノ指導の現場で活用可能な汎用性のある手法をまとめ、提案したいと考えている。 具体的なスケジュールは、H31/4月~5月:2年目のまとめと論文執筆、H31/6月 論文発表、H31/7月~11月:教育現場での実践と再検証、H31/9月学会発表、H31/12月:実演による公開講座の開催、H32/1月~2月:報告書を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、1年目の使途として講習実施のための謝金と文献等の物品購入が主であり、動画処理に求められるパソコン及びソフトウェア等の高額な物品購入を行わなかったためである。一方、2年目は物品として動画処理の可能なPC、プリンタ、トナー等の購入、実験の際の専門家・被験者への謝金に充てたものの、1年目の繰り越し金の約3割程度が次年度使用額として生じている。3年目は100,000円を物品としてデータ保存用HDD、動画記録用SDカード等の購入に充て、200,000円を学会発表、論文等執筆の専門家との打ち合わせ等の旅費、200,000円をピアノ調整・調律(2 台)、専門家と資料整理の謝金に充てる計画である。
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