最終年度に実施した研究について:本研究テーマは、少子化下にある日欧亜の高等音楽教育の比較研究である。その実態と課題を平成29年度(2017年度)より各国編ともいうべき日本(2編)、韓国、中国(2編)、ドイツの計6編の論文にまとめた。最終年度の令和4年度(2022年度)は各国編を横断的に比較研究し総括編・結論編とも言うべき最終論文(査読付き)の執筆を行った。その概要は以下の通り。①「日欧亜の少子化社会の実態と展望」、②「日欧亜の少子化社会の高等音楽教育への影響」、③「日本の音大卒業者の実態と課題」では、劇的に半減した日本の音大卒業者と就職で苦戦する音大卒業生の実態を明らかにした。④以上を踏まえて「日本の高等音楽教育の少子化対応策への考察」を行った。 研究機関全体を通じて実施した研究の成果について:日本以上に少子化に悩む韓国、中国、ドイツにおいて少子化が高等音楽教育に及ぼす影響は大きく異なる。韓国では、日本で顕在化した音大入学者数の半減により学校運営の根幹を揺るがす問題が潜在化の段階に留まっている。中国は少子化が深刻化する中で逆に音楽教育と音楽産業の拡大一途が顕著である。ドイツの音楽大学は毎年定員を大幅に超える受験生を世界から迎え、選び抜かれた学生が入学してくる拡大均衡の中にある。上記の分析を通して日欧亜4カ国の実態ベースに、日本の高等音楽教育の少子化対応策を4つの切り口から考察した。①少子化で激減する音楽教室生徒数と楽器売上高を海外展開で補う日本の楽器メーカー・ヤマハの経営実態が示唆すること。②日本の音大への低調な留学実態とその背景。③日本の音大入学者の約1割を留学生で占める誘致目標の提言。④新たな卒業後の進路やキャリア形成指導の重要性と音大生の職業観の確立。女子学生が9割を占める日本の音大生激減の課題は、究極のところ、少子化以上に女性のキャリア形成の問題そのものである。
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