今年度は,公立小学校教諭の協力を得てこれまでの研究結果を踏まえた授業実践を行い,器楽・歌唱の授業を主として,効果的な指導言や児童の言語化を促すことのできる授業実践のポイントを検討した。 低・中・高学年の各授業においては,①「音を出す」活動では「音を聴く」ことに留意させる指導言を組み込むこと,②擬音語や比喩表現のほか,多くの児童がもっている生活経験を想起させるような比喩表現・比喩動作を音楽表現と関連付けた指導言や活動を組み込むこと,③「自分や友達の身体の使い方」に意識を向けるような活動や指導言を組み込むことを意識した。 その結果,演奏表現の時間と同程度に「聴く」時間を設定し,聴き役の児童が聴き取ったことだけでなく,演奏者本人が身体的に何をどうしたかを振り返り,言葉で互いに伝え合う時間を設けることが,曲のイメージを演奏表現として具体化するための技能への意識づけにつながることが分かった。また,高学年だけでなく低学年期でも演奏時に児童が自ら「演奏のコツ(より自分のイメージに合う演奏方法)」を見つけ,言葉で全体共有し教えあう時間が,演奏時の身体操作への意識づけをより促していることがわかった。特に低学年では,細かいスモールステップの設定が重要であることが再確認され,例えば運指については,動かす指を意識的にもう片方の指で指し示すなどして,視覚的に身体操作を確認できる段階を組み込むことが有効であることが分かった。上記②の比喩表現に関しては,児童の回答に沿って教師が質問を重ねることで,具体的な情景や体感を想起させることが曲のイメージを深めることにはつながっていた一方で,低学年においては比喩表現を用いることができても,身体感覚や身体操作とそれを関連付けて技能の向上を図ることに難しさがあることが見て取れた。
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