研究課題/領域番号 |
17K14049
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
下村 岳人 島根大学, 教育学部, 講師 (90782508)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 算数教育 / 話し合い / 論点を整理する力 |
研究実績の概要 |
本研究は,小学校算数科の話し合い活動における「論点を整理する力」に関する実態を捉え,その能力を高めるための学習指導モデルを開発することを目的とする.研究計画に従い,今年度は,会合4回,作業部会1回のほか,必要に応じた個別の打ち合わせを通して,以下の点について研究を進めた. 1.小学校算数科の話し合い活動において「論点を整理する力」を育成することの意義,重要性について,国内外の文献および先行研究をもとに基礎的考察を行った.特に,算数の特徴を生かした能力の育成の観点から,これまでの算数科授業にみられる子どもと教師の発話パターンと,算数科で育成すべき能力を踏まえた,教師と子ども,子ども同士の相互行為のあり方について検討した. 2.国内外の学級にみられる相互行為に関する先行研究をもとに,現在の日本の小学校の教室にみられる,教師と子ども,または子ども同士の相互行為の特徴を明らかにし,算数科授業の話し合い活動における「論点を整理する力」の育成に関する現状と課題について幅広い観点から検討し,概要を把握した. 3.小学4,5年生の算数科授業(「小数の掛け算」,「分数の掛け算」)を分析し,そこでみられた相互行為の分析を行い,話し合いが行われるうえで,学年の違いにみる未知の事柄と既有の知識との結び付け方について,整理を行った. 4.小学4年を対象に「子どもの見方の変容」に関する実験授業(「折れ線グラフ」)を計画・実施し,授業中における子どもの活動についてのデータ収集を行った.そして,主として,子どもの話し合いの中で,問題を解決するうえで重要な論点がどのように整理されていくのかという観点から,データの分析を開始した. 5.国内において,研究の途中経過について学会発表および論文発表を行い,意見交換を行うとともに,最新の情報の収集を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画では,「平成29年度は,研究体制の整備・強化を図りつつ,「論点を整理する力」の意義及びそれに関わる子どもの認識や指導内容,方法等を考察するために有効な理論を明らかにし(研究目的(1)),また,「論点を整理する力」に関わる子どもの実態を明らかにし,その様相を捉える枠組みの設定(研究目的(2))に向けての調査の準備を開始する」としている. 「研究体制の整備・強化を図る」ことについては,3名の大学の研究者(2名が数学教育学研究者,残り1名は教育心理学研究者)及び7名の小・中学校教員(附属学校教員を含む)の合計10名の研究協力者の協力を得ることができた. 「研究目的(1)」については,国内外の先行研究について,「算数科における子どもの用いる説明」,「算数科授業における子ども同士の論じ合い」「数理認識の発達に関する議論」,「教室文化にみる談話の構造」,「言語行為論を基盤とした発話の特徴」等を中心に情報収集及び検討を行い,算数科において「論点を整理する力」を育成することの意義,重要性について,幅広い観点から検討した.関連する理論的考察については,今後も継続的に進める. 「研究課題(2)」については,「分数」(小3),「折れ線グラフ」(小4),「小数の掛け算」(小4),「分数の掛け算」(小5),「三平方の定理」(中3)等に関する事例や,算数科の一斉授業において子どもが論点を定める場面の事例を共有し,現状と課題の概要を把握した.また,小学3年生の「分数」の授業を分析し,算数科授業における子どもと教師が用いる発話の特徴と関係を捉えた.さらに,「数理認識の発達」を視点に実験授業を計画・実施し,そこでみられた子どもの相互行為に関するデータの収集を行い,その分析を開始した. 以上から,平成29年度の研究はおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究は,おおむね順調に進展しているので,引き続き,研究計画に従って研究を進めていく. 研究計画では,平成30年度は,「研究目的(2)に関して,話し合い活動場面における「論点を整理する力」の様相を捉える記述的枠組みを構築するとともに,その記述的枠組みをもとに,子どもの発言の分類及び整理を行い,話し合い活動にみる「論点を整理する力」の実態把握及び,特徴を明らかにする.また,研究から得られた成果は,学会発表,論文,研究報告書にまとめ,発信を行っていく.」としている. そこで,平成30年度は研究協力者の協力のもと,実験授業,質問紙調査を本格的に開始する.それらの分析から,算数科授業にみる話し合い活動において,「論点を整理する力」の実態を捉える記述的枠組みの開発を試みる.調査は,小学校を中心に行い,学年の偏りがないように,低学年,中学年,高学年それぞれからの調査を実施する.また,作成した記述的枠組みは,学会発表から得られた情報や,研究協力者との議論をもとに,随時見直しを繰り返すなかで,より信頼性や汎用性の高いものへと改善に努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は,勤務先の変更に伴い,同時期に予定していた国際学会(PME:シンガポール)への参加ができなかったため,繰越し金が発生した.平成30年度は,研究計画で予定していた学会以外にも,研究発表を行う予定をしている.昨年度の残りの助成金は,そちらの旅費及び学会参加費に充当する.
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