これまでの研究成果を踏まえた上で,戦後初期の歴史教育論の分析に留まらず,より広く社会的意義のある研究成果を志向して,学習者である子供たちにとって「学ぶ意義」を意識した日本史授業プランの開発とその教育的効果の検証に取り組んだ。 授業プランについては,高等学校の地理歴史科における新科目である「歴史総合」での実践を見据えた上で,日本近現代史,とりわけ,戦前期の政党政治を学習対象として開発し,その成果を論稿にまとめることができた。また,開発したプランの教育的効果の検証については,実際の高等学校での実践を通して行い,その成果を関連学会において報告し,諸氏の批判を仰ぐことができた。 本研究においては,「目標」概念としての見方・考え方を意識すること,つまり,子供たちの「社会の見方・考え方」を成長させることが重要であると考え,戦後初期において,民主政治についての見識を深める日本史教育を主張した和歌森太郎の所論を再検討する中で,民主的な国家・社会の形成者の育成という観点から,日本史の意義ある学びの一つのあり方として,「民主政治についての見方・考え方」の成長を企図した学びを構想した。また,和歌森太郎は,日本史の意義ある学習において取り上げるべき学習内容の一つとして,戦前期の政党政治を挙げており,開発した授業(単元)プランにおいては,「国民の支持を得て成立したはずの政党政治はなぜ挫折していったのだろうか。」を単元を貫く学習課題として,教師による解説に終始するのではなく,生徒自身による探究のプロセスとしての学習展開を意識した。 検証授業の結果からは,生徒たちは,政党政治の特色や脆弱性について理解することを通して,常識的な政党や政党政治に関する見方・考え方を成長させただけではなく,暗記中心的だった歴史学習観を,思考力を鍛え,見方・考え方を成長させるものとしてのそれへと変革することができた。
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