研究課題/領域番号 |
17K14051
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
長田 健一 就実大学, 教育学部, 講師 (30736161)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 主権者教育 / カリキュラム開発 / 熟議 / 平和・安全保障政策 / 憲法9条 / 集団的自衛権 / 事実認識 / メタ認知 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下のような課題や知見に基づき、設計した授業計画の見直しを行った。 第一に、平和・安全保障政策に関する学生の議論の検討から、次のような課題が明らかとなった。①事実に基づかず、規範・価値観やビリーフだけによる議論になりやすいこと。②議論で設定されている選択肢や自分の主張が依って立つ規範・価値観が何であるかを自覚(メタ認知)できていない場合が多いこと。③大別すると、選択肢に対し、「日米安保条約があった方が、日本の防衛費が抑えられるので良い」といった功利的判断をする者と、「自国は自分たちで護るべきだ」といった規範的・倫理的判断をする者とに分けられるが、いずれもその背景にある自身の思考(基盤的な考え方)が強固であるほど、判断は変化しないこと。④選択肢の争点を憲法9条と自衛隊の権限をめぐる判断に焦点化してしまうと、自国防衛の視点からしか考えられず、国際的な平和構築の視点からの思考が乏しくなってしまうこと。⑤上記③などの要因により、選好の変容は起こりにくく、そのため共通善の形成が困難であること。 第二に、認知神経科学の知見が示すように、情報は自身の信念に応じて評価されるため、多くの場合、事実や論理は人の考えを変えられない(T. Sharot, 2017=2019)。このことは、上記③及び⑤の課題とも一致しており、社会科教育における論争問題学習がこれまで前提としてきた、事実認識に基づく主張の相互批判によって合意形成が可能であるという考えを根底から揺さぶるものである。 これらのことから、①議論において争点に関わる多角的な事実を常に参照させること、②自身の思考の背景をメタ認知できるようにすること、③国際平和への貢献を謳う憲法前文を踏まえて考えさせること、④互いの感情や目的も理解・共有できるようにすることで選好の変容と共通善の形成を促すことが可能となるよう、授業計画を再構成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度のうちに開発した授業計画に基づく授業を学校で実施する予定であったが、そこまで至っておらず、全体として研究計画の遂行が遅れている。このことは、授業開発のための実験的ディスカッションで得られたデータの分析において、検討の必要な観点が予想以上に多岐に渡り、時間を要したため、授業の開発が遅れ、授業実施のタイミングを逃すこととなってしまったことによる。そのため、補助事業期間の延長を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
今後取り組む必要があるのは、①実験授業の実施、②得られたデータのディスコース分析、③分析結果に基づく、生徒の認識・思考とその変容を説明する理論の生成、④授業モデルの修正である。しかしながら、現在、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う長期の休校によって年間指導計画等各種スケジュールの大幅な変更や授業実施体制に係る様々な制約が生じており、①の計画遂行になかなか見通しのつかない困難な状況となっている。そのため、引き続き学校での授業実施の可能性は探っていくが、もし学校での実施が叶いそうにない場合、次善の策として、次のいずれかの対応策をとる。(a)インターネット上でディスカッションへの参加者を募り、オンラインビデオ会議によって議論をしてもらう。(b)中高生は対象とせず、研究代表者の勤務校での大学生を対象としたディスカッションで代替する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験授業が実施できなかったことなど、研究計画の全体的な遅れが生じていることによる。補助事業期間を延長した2020年度においては、実験授業の実施や学会参加のための費用、データ分析に用いるソフトや書籍の購入が主な使途となる。
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