本研究は、中等レベルの主権者教育を対象に、学習者が日本の平和・安全保障政策のあり方についてどのように思考・判断しているのか、また、他者との議論の過程でそれがどのような場合に変容するのか/しないのかを、実際の議論の分析から明らかにすること、並びに平和・安全保障政策に対する多面的・批判的な思考と、意見が異なる者の間での共通基盤(共通理解や共有価値)を形成するための授業構成原理・授業モデルを構築することを目的としている。 2022年度は、これまでに得られた知見に基づき、最終的に授業モデルの開発に取り組んだ。授業モデルを簡潔に示すと、以下のような学習過程及び内容による。[step1]平和・安全保障政策に関わる基本的な概念や事実関係の学習(個別的自衛権・集団的自衛権・集団安全保障体制の概念と国際法・国内法上の根拠・要件、日本国憲法における積極的平和主義(前文)と消極的平和主義(9条)、地政学の基本概念等)。[step2]平和・安全保障政策をめぐる基本的な争点の学習(一国平和主義の是非、憲法9条の解釈等)。[step3]平和・安全保障政策の選択肢の提示と説明。[step4]各選択肢の分析(背景にある価値、予想される結果やコスト、リスク、メリット・デメリット等)。[step5]各選択肢に対する考えの表明と議論。[step6]議論を通じて共有できた点とできなかった点の確認。[step7]議論を通じた自身の認識・考えの変容の省察。 昨今、周辺国の動きなどによって日本の安全保障環境は厳しさを増しており、安全保障政策のあり方も不断に問い直される必要性に迫られている。これに対し、本研究が示した原理やモデルは、理想主義と現実主義のどちらにも偏らない的確な判断を導き出すことや、政策をめぐって国民の間に生じかねない深刻な分断を防いでいくことに貢献し得るものであり、この点に意義・重要性があると考える。
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