本研究は、「合理的配慮に関する聴覚障害学生の意思表明スキル獲得とその活用過程」をテーマに、聴覚障害学生がどのような経験や要因によって意思表明スキルを獲得し活用していくのか、その過程ならびに関連要因を当事者の語りから明らかにするものである。最終年度では、聴覚障害当事者のインタビュー調査の質的分析結果をさらに精緻化し、得られたコードやカテゴリからプロセスの図式化を行い、それらをまとめて論文投稿を行った。 本研究では、研究代表者がこれまで支援にあたった聴覚障害者のうち、意思表明スキルを獲得し自ら意思表明できていると考えられる聴覚障害者6名を対象としインタビュー調査を行った。その結果から、意思表明スキルの獲得や活用に関連する語りを抽出し、内容ごとに分類した結果、75個のコードが生成された。さらにコード間の関係性を検討したところ、25個のカテゴリーにまとめられた。25個のカテゴリのうち、15個は「意思表明スキル獲得過程」に関わるカテゴリーであり、①意思表明スキルの獲得前段階、②前期獲得段階、③後期獲得段階、④活用段階の4つにわけられた。残りの10カテゴリーは「意思表明スキル獲得の促進」に関わるものであり、直接的促進要因と間接的促進要因に分類された。 得られたコードおよびカテゴリーを対象者の語りに基づいて時系列に並べ、図式化を行った。その結果、この意思表明スキル獲得および活用過程は、必ずしも直線的かつ一方向的なプロセスを辿るのではなく、自身が直面する困難さと必要な配慮に関する説明方法を模索し、実際に意思表明をして受容される経験を積み重ねながら、循環的なプロセスで発展していくという特徴が明らかとなった。 だがこのプロセスは、障害の程度や大学等における支援体制の有無によって異なるプロセスを経ることが考えられるため、対象者を増やす等さらなる検討が必要である。
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