研究課題
本年度は、主に研究実施計画にある測定試料の作製を行った。高忠実度2量子ビットゲート操作の際には、従来の1量子ビット操作(電子スピン共鳴)に加えて、量子ドット間のトンネル結合の精密制御が必要となる。そのため、量子ドットの各パラメータ(化学ポテンシャル、ドット間および電極―ドット間の結合)の制御性の高い構造を持つ量子ドット試料が必要である。このような要請を実現可能な多層微細ゲート構造を持つ試料作製のための条件出し(電子線描画、リフトオフ、ゲート絶縁膜形成など)を行った。目標通り、アルミニウムを用いた多層ゲート電極が4nm程度のAl2O3絶縁体によって互いに絶縁された量子ドット構造の作製に成功した。次年度の研究では、作製した試料の低温測定を行うこととなる。試料作製の他に、当初使用予定であった希釈冷凍機が故障してしまったため、急遽、新規に希釈冷凍機測定セットアップの立ち上げが必要となった。本研究で対象とするスピン量子ビットの性能(忠実度)評価のためには、高いスピン─電荷変換の精度が必要であるが、それはスピン量子ビット系では電子温度によって主として制限される。以前の典型的な測定セットアップでは、100mK程度(希釈冷凍機ベース温度20mK程度)の電子温度が得られていたが、低温フィルタ回路などの測定セットアップの改善によって、これを40mK程度まで低減した。これによって、次年度には2量子ビットゲートの忠実度を正確に評価できると考えている。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、2量子ビット実験に向けたSi/SiGe量子ドット試料の作製を完了した。同位体制御Si/SiGeについては制御性が高く、電荷雑音の小さい量子ドット形成に必要な高移動度の2次元電子ガス基板が入手できなかったため、使用しなかった。しかしながら、2量子ビット制御のコヒーレンス制限要因は磁気的雑音でなく電荷雑音であると考えられるため、計画の進行に問題はないと考えられる。また、次年度の測定から使用予定である希釈冷凍機測定セットアップを行い、従来の測定系に比べて電子温度を2倍程度低減することに成功した。上記の進捗から、当初の研究目的に向かって概ね順調に進展しているといえる。
当初計画通り、作製したSi/SiGe量子ドット試料の希釈冷凍機セットアップでの測定を進めていく。まず、2量子ビット評価のための要素技術となる各スピンについての電子スピン共鳴、1量子ビット忠実度評価(randomized benchmarking)、T1緩和時間以内での2スピン読み出しなどの確認を行う。その後、有限のスピン交換結合を導入し、2量子ビットconditional操作の確認、電荷雑音の影響の評価などを行う。
主として測定に用いるための物品費に予算を計上したが、実際測定系に必要な条件を検討したところ、想定よりも複雑なゲート電圧パルスを印加する必要があり、それに対応したセットアップ構築、物品購入が必要なことがわかった。それらの当初計画からの仕様変更について検討、対応するために時間がかかり、初年度予算を次年度使用額として繰り越すこととなった。
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Nature Nanotechnology
巻: 13 ページ: 102-106
10.1038/s41565-017-0014-x