研究課題/領域番号 |
17K14078
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
武田 健太 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (80755877)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子情報 |
研究実績の概要 |
昨年度より継続したSi量子ドット試料の作製を完了し、その基本的な特性の測定を行った。まず、高周波電荷計を用いて、少数電子の2重量子ドット形成を確認した。また、シングルショットスピン読み出しを行い、1量子ビット制御(単一電子スピン共鳴)を観測することができた。続いて2量子ビット制御に必要となるスピン交換結合の制御を試みた。しかしながら、スピン交換結合(あるいは、トンネル結合)を制御するためのゲート電極と量子ドットのポテンシャルのクロストークが非常に大きく、スピン交換結合の制御範囲が小さいという問題が判明した。 そこで、デバイス構造を改良し、問題となるゲート電極のクロストークの小さい試料を作製した。従来の試料では1層の微細ゲート電極を用いて量子ドットのポテンシャルおよびトンネル結合の制御を行っていたのに比較して、新規作製した試料では、3層の微細ゲート電極を積層することによって、より精密な量子ドットのポテンシャル制御を可能とした。 続いて、作製した試料を希釈冷凍機で測定し、2重量子ドットの基本的な特性の測定を行った。ゲート電圧を制御することで、少数電子の2重量子ドットの形成を確認した。各量子ドットに単一電子を閉じ込めた状態で、ゲート電極間のクロストークの評価を行った。結果、以前の試料に比べてクロストークが20%程度に低減されていることを確認した。これによって、以前の試料で問題であったスピン交換結合の制御範囲の問題が解決され、2量子ビット操作の実装が可能となると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績概要にもある通り、従来の試料は2量子ビット制御に十分な制御性を備えていなかった。そのため、当初計画にはない試料構造の大きな変更が必要となり、その試料作製(条件出しなども含む)に時間が必要となった。このため、当初2年で完了する予定であった研究計画を3年に延長している。 新しく作製した試料については、希釈冷凍機を用いた極低温測定を開始しており、当初目標の通りの十分な制御性を備えていることを確認することができ、順調に動作しているといえる。直近の実験では、2重量子ドット中のそれぞれのスピンについて、1量子ビット操作が可能であることを確認しており、最終目標となる2量子ビット操作の実装および性能評価を行うことができる実験状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
2018度に作製および測定開始した試料について、測定を継続し、2量子ビット操作の実装及び性能評価を行う。具体的には、スピン交換結合が単一スピン共鳴幅(~0.1MHz)より十分大きい状態を実現し、その条件においてスピン操作、スピンコヒーレンスの評価を行う。 スピン交換結合を大きくする方法として、量子ドット間のエネルギー離調(デチューニング)を制御する方法と、トンネル結合を制御する方法があるが、本研究では主として後者を用いる。トンネル結合を制御する方法では、スピンコヒーレンスに悪影響のある電荷雑音の影響を低減できると考えられている。これを検証するために、ラムゼー干渉やスピンエコーなどの方法を用いて、スピンの位相コヒーレンスの評価を行う。 2量子ビット制御の性能評価のためには、ベル状態の量子トモグラフィーやランダム化ベンチマークなどの方法を用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2量子ビットの実験を行う予定で予算計画を行っていたが、当初予定にない試料作製を行うこととなったため、予算執行に大きな変更が生じた。 本来予定した2量子ビットの実験を行うための実験装置や高周波部品の購入を行っていないため、少額の消耗品を購入したのみとなっている。また、試料作製に必要な費用は、他予算から執行したため、計上されていない。 翌年度からは本格的に2量子ビットの実験を開始する予定である。実験状況を踏まえつつ、必要な物品の仕様を検討を行った上で、本来昨年度までに購入が予定されていた実験装置や高周波部品の購入に使用する予定である。
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