研究実績の概要 |
初年度は、酸化モリブデンナノシートから炭化物ナノシートへの反応メカニズムを明らかにするために2つの方向で実験を遂行した。 1つ目は炭化現象が起きる最適な固相反応条件を調べた。まず、MoO2ナノシートとカチオン性ブロックポリマーの自己組織化交互吸着反応を利用してナノシート/ポリマー単分子ペア膜を合成した。得られた薄膜を還元雰囲気下(水素5%)で200,300,400,500,600,700℃とそれぞれ加熱した試料を合成した。放射光面内回折法により得られた結晶相の同定を行ったところ、500℃までほとんど変化が見られないが600℃になるとより大きな二次元六方格子を持つナノシートが生成していることが明らかとなった。このとき軟X線光電子分光測定(XPS)により得られたC, O, Nの情報と合わせて考察すると、還元焼成することでMo2Cナノシートが生成したことが示唆された。XPS測定では酸化物と炭化物のナノシートのバレンスバンド測定や 基板との相互作用まで解析するに至っている。懸念点としては、現在のin-plane回折測定は大気中で行っており、XPS同様に雰囲気制御を行うのが望ましい。そのため、初年度には放射光in-plane回折用の雰囲気チャンバーの開発も同時に行い予備的に測定が可能であることを実証した。 2つ目はポリマーの種類を変更することである。通常、自己組織化製膜に用いるカチオン性ポリマーには、ポリビニルアミン+ポリビニルアルコールの共重合ポリマーを用いているが、今回PEI, PDDAといった別のポリマーを用いてナノシート/ポリマーペア膜を作製した。これらを上記の還元温度条件で処理したところ、いずれも600℃でMo2Cが生成しており、炭化反応はあまり影響していないことが示唆された。
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