研究課題/領域番号 |
17K14080
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福田 勝利 京都大学, 産官学連携本部, 准教授 (80504331)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ物質 / ナノシート / 炭化物 / カーボン / モリブデン / 金属 |
研究実績の概要 |
2年度目は、酸化モリブデンナノシート単層膜と多層膜の炭化過程を調べることで、層数が反応へ及ぼす影響について調べた。単層膜の方は初年度までに解析を終えており、今年度は2層以上の多層膜について分析・解析を進めた。2層膜では、単層膜同様に500℃までMoO2ナノシートの構造が保たれていることがわかった。600℃の加熱になるとMo2Cナノシートが生成し始め、最終的にMoO2ナノシートとの混相になった。3層膜でも加熱による相転移はほぼ同様であった。単層膜の結果とあわせて検討したところ、総数が増加するほどMo2Cナノシートの成分が増加していることが定量的に示された。単層膜ではMoO2からMo2Cへ転移する際には単位面積あたりの密度が低下するためシート内に亀裂や穴が生じてしまうが、2,3層膜ではより緻密なナノシートが合成できることがわかった。 その他、他の金属炭化物ナノシート創製への可能性として、酸化タングステンナノシートとポリマーの加熱焼成時の挙動について解析を行った。単層膜のみでの解析結果ではあるが、異種の相へ変化することがわかった。タングステン化合物は複数の相を持つことから二次元回折測定だけから帰属することが難しく、現在も相の同定作業を進めている。 また、初年度に開発した雰囲気制御チャンバーを用いた放射光in-plane回折測定法をさらに改良することで、大気・真空の環境から不活性ガス雰囲気下での測定まで拡張することができた。今年度、無事に放射光実験を継続するための課題申請を取得することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請で計画していた装置開発も達成でき、これによりナノ物質とカーボンとの反応場を調べることが可能となり、炭化モリブデンナノシート生成時のメカニズムの理解が進んだ。また、今年度に実施予定していた「酸化モリブデンナノシートの炭化」以外の系を見つける研究も予備的に実施することができた。その過程から別の新しいナノシートを合成することにも成功している。さらに、ナノシート薄膜の炭化現象の比較として低次元ナノ反応炉と炭素源の反応によるナノチューブ生成まで研究領域を広げることができたことから、当初の計画以上に進展しているといえる。 以上の申請書記載に近い領域に加えて、ナノシートコロイド合成の過程からコロイド自体に思いがけない物性を見出しており(特許出願済)、新たな研究シーズを産み出すことにも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も計画書通り実施する。 昨年度に引き続き最終年度も低次元ナノ物質(ナノシート、ナノ粒子など)とカーボン源との反応から新たな低次元ナノ物質の探索・解析を続ける。特に酸化モリブデン系と類似した酸化タングステン系においてすでに得られたデータの解析を進めることで、炭化現象を利用した新たなナノシート創製の道を切り開く。同時に、これまでに当予算で整備した雰囲気制御チャンバーを備えた放射光分析法を、他の金属ナノ物質と炭素源の反応の解析へ応用展開を進めることで、広い観点から本申請のタイトルなる「二次元ナノ反応炉からの炭化物ナノシートの合成」の理解を深める。十分なビームタイムが得られれば装置のアップデートも行う方針である。 また、最終年度にあたるため、まとめ作業も同時に進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、放射光実験のための装置開発用の物品の購入を計画していたが、つくばの放射光実験施設でのビームタイム稼働期間が大幅に縮小されたこともあり、装置開発のための十分な検討時間を別途用意することが困難であった。今年度もビームタイムの課題自体は継続しているため、繰り越し分と合わせて放射光施設のビームタイムの利用状況に合わせながら、ナノシートの炭化現象により有用な知見を得るための装置のアップデートも行いたい。
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