研究実績の概要 |
多様な半導体からなるヘテロ構造ナノ粒子の合成を引き続き行い、それらの光電気化学的特性の評価を行った。昨年度に合成したCu2-xSe/Ni3Se4ヘテロ構造ナノ粒子が高い酸素生成触媒活性を示す原因を電気化学測定やXPS測定などにより分析し、触媒反応中に表面に形成したNiOOHがCuの存在により融合が抑制され大きな比表面積を維持できているため高い活性を示すことが明らかになった。また、ヘテロ構造を簡便に高精度で調製できるカチオン交換反応を利用し、引き続きCu1.8Sナノ粒子の様々なカチオン(Co,Mn,Zn,Ni)との交換反応を行い、原子分解能走査透過型電子顕微鏡を用いた生成物の詳細な解析により、カチオン交換反応中の結晶構造変化やヘテロ構造の形成機構を検証した。例えば、Cu1.8SナノロッドとナノプレートをCoでカチオン交換すると、ナノロッドでは立方晶Co9S8が、ナノプレートでは六方晶CoSが生成した。粒子内の元素分布を観察すると、形状によってCu1.8Sナノ粒子の異なる面からカチオン交換が進行することが分かり、それぞれの結晶構造の熱力学的安定性やCu1.8Sのアニオン格子の速度論的安定性が複雑に競合していることを見出した。さらに、太陽光の有効利用のためのナローバンドギャップ半導体を含むヘテロ構造として、Cu2ZnSnS4(CZTS)/CdSナノ粒子を選択的に合成し、過渡吸収分光測定により励起キャリア挙動を測定した。CZTSのみが吸収できる600 nmのポンプパルスで励起後の過渡吸収スペクトルでCdSからのブリーチングが見られたことから、CZTS内の励起電子がCdSに移動することを確認した。また、ローダミンBの光還元反応において、>590 nmの光でCZTS/CdSがCZTS単独よりも高い活性を示したことから、ヘテロ接合の形成が光触媒活性向上に大きく寄与していることを示した。
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