研究課題/領域番号 |
17K14085
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
丹下 将克 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (10533458)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / ポリマーラッピング / 低速遠心分離 / バックグラウンド吸光度 / ピークバレー比 |
研究実績の概要 |
直径1.2nm以上の特定構造の半導体カーボンナノチューブ(CNT)は光学的用途で重要な波長帯(1500-1600nm)での発光を可能にする。CNT構造選別法におけるこれまでの研究で、溶媒密度などの要因を考慮した選択的抽出の効率化に関する知見とともに、直径の大きなCNTでは、凝集化(束の形成)が促進されること、そのCNTの束は弱い遠心力による遠心分離処理で除去可能になること、さらに、孤立した直径の小さなCNTも弱い遠心力による分離処理で除去しやすいことが分かってきた。 そこで、本年度、分離除去の容易さが粒子形態に依存する現象をポリマーラッピングによるCNT構造選別技術に活かし、低速遠心分離処理によるチューブ構造選別手法を開発した。その手法原理は、1.2nm以上の直径の大きなCNTに限定されず、チューブ構造を高感度に識別可能なポリマーを用いて他の直径分布を有するCNT材料へ適用できるため、汎用性が高い。今後、直径分布範囲の異なるCNT材料やチューブ構造識別可能ポリマーの選択肢が増えることで、さらに有用な手法と成りうる。本手法で得られた半導体CNT分散液は、従来の分散液と比較して1450nm以上の近赤外波長領域で高いピークバレー比を示し、加えて、不純物やCNTの束などに起因するバックグラウンド吸光度が低いことを特徴とする。この低バックグラウンド吸光度や高ピークバレー比などの特徴は光学的用途に重要な要素であり、孤立分散(1次粒子分散)した半導体CNT分散液における傑出した特徴ともいえる。 さらに、1450nm以上の波長領域で発光可能な直径の大きなCNTでは今まで、チューブ構造を従来手法で制御すると抽出量がごく僅かになってしまうため、評価可能な特性の種類に制約があった。しかし、開発した手法で抽出量が劇的に向上したことによって、光吸収したフォトンの挙動に関する新たな知見も得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者らが見出してきた高感度なチューブ構造識別能力を有する幾つかのフルオレン系ポリマーにおいて、開発した手法を用いることでチューブ構造選別に必要な遠心力の劇的な低減(10分の1以下)を達成できた。直径の大きなCNTにおいてチューブ構造選別が困難となる原因は、一般的に、チューブ直径が増大するにつれて、チューブ構造の類似性が増すだけでなく、チューブ曲率が小さくなることによってπ-π相互作用を介してバンドル化が促進されることにあり、本質的な要因である。本研究過程において、従来の超遠心分離処理とは異なり、安価な卓上遠心分離器で運転可能な弱い遠心力によって、1450nm以上の光学的用途に重要な波長帯で発光可能な特定チューブ構造のCNTを選択的に抽出できるようになったことは、このチューブ構造選別技術の大衆化に貢献できる。
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今後の研究の推進方策 |
開発した手法を活かした研究展開に加えて、本手法に関して対外的に成果発表を行うことで成果発信を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に招待講演で本手法に関する成果発表を行うこととなったため、その際の旅費として使用する。
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