研究課題/領域番号 |
17K14088
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
蓬田 陽平 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (90647158)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遷移金属カルコゲナイドナノチューブ / 無機ナノチューブ / 遷移金属カルコゲナイド / 構造制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、遷移金属カルコゲナイドナノチューブ(TMDC-NT)の構造制御技術の開発により均一かつ1次元性の高い(直径の小さい、層数の少ない)TMDC材料を創出し、構造制御された1次元TMDC試料を用いてバルクや2次元系には無いユニークな機能を開拓することを目的としている。これまでTMDC-NTを用いた物性研究を行ってきたが、用いる試料には構造の不均一性の問題があり、特に大きい直径の試料の存在により、1次元化による機能向上は見出されていない。平成29年度は、本研究の基盤技術となる1次元TMDCの構造制御の確立を目標とし、構造分離を用いたTMDC-NTの均一化、ソルボサーマル合成を用いたTMDC-NTの1次元性の向上を行った。 構造分離:非イオン性界面活性剤を用いることで、TMDC-NTの一つである二流化タングステンナノチューブ(WS2-NT)の安定な分散液を作製できることを発見し、遠心分離による試料構造の均一化を行った。遠心加速度の制御により、試料直径が制御できることを見出し、平均直径120 nmの原料から32 nmの試料を得ることに成功した。試料の平均層数は12層となり、試料の層数の低減に伴う光学遷移波長の変化を確認した。1次元化による電子構造の変化を反映したものと推察される。 合成:より直径の小さいWS2-NTを得るために、ソルボサーマル法を用いた1次元性の高いWOxナノワイヤの合成を行った。得られたナノワイヤは、化学気相法により試料の1次元性を保持したまま硫化し、WS2-NTを得る。合成装置の立ち上げから行い、現段階で平均直径20 nmのWS2-NTの合成に成功している。既に開発した構造分離との組み合わせにより、1次元性の向上と均一化の両方を達成できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、本研究の基盤技術となる1次元TMDCの構造制御の確立を目標とした。既に構造分離を用いて、直径30 nm程度の均一なTMDC-NT試料を得ており、TMDC試料の均一化および1次元性の向上に成功している。また、低次元化による光吸収構造の変化も確認しており、当初の目標である1次元性を反映した機能開拓につながる構造制御を達成している。さらに、ソルボサーマル合成によって得られた試料を構造分離の原料として用いることで、更なる1次元性の向上も可能である。よって、研究は順調に進展しており、今後は当初の計画通りに、構造制御されたTMDC-NTを用いた物性研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、前年度確立したTMDC-NTの構造制御技術の最適化と構造制御されたTMDC-NTの薄膜を用いた機能開拓を目標とし、以下の研究を行う。 構造制御:平成29年度に探索した条件を基に、合成条件、分離条件のパラメータの最適化を行い、1次元性の高い試料に特化した技術の開発を行う。 機能開拓:得られた均一な1次元TMDCを用いて、試料構造の異なる薄膜を複数作製する。また、それぞれの薄膜を用いて電気二重層トランジスタ(EDLT)によるキャリアドーピングを行う。これにより、構造・キャリア数をパラメータとした物性解明を行う。直径の小さいTMDC-NTにおいて向上すると期待されるキャリア易動度の構造依存性の解明、1次元物質において最大になると期待される熱電特性の解明を目指す。
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