研究課題/領域番号 |
17K14091
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
松本 尚之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (20772669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 触媒 / 合成効率 / 改質 |
研究実績の概要 |
最初に、既往研究でカーボンナノチューブ(CNT)を合成している「CNT合成部」に、CNTを合成するための炭素源ガスをCNT合成前に触媒反応させる「触媒反応部」を追加したCNT合成炉を組立てた。この装置により本研究のあらかじめ触媒反応により改質した炭素源ガスを用いてCNTを合成する実験条件などの検討が可能となった。 次に上記合成装置を用いてCNT合成時に炭素源ガスを触媒により改質することでCNT成長効率が向上するのか、概念検証を実施した。この検証では、炭素源ガスを改質する触媒は鉄(Fe)とし、金属メッシュに膜厚2.0nmスパッタ成膜した。Fe触媒を用いて単層CNT(SWCNT)を合成時した場合、Fe触媒を用いない場合と比較して、SWCNTの収量は約1.5倍、長さは2.0倍に向上した。また、CNTの品質(結晶性)の指標となる、ラマンスペクトルのG-bandとD-bandの比(G/D比)は、Fe触媒を用いても変化しなかったことから、品質はFe触媒の有無に関わらず同等であることを認めた。さらに、透過型電子顕微鏡観察からも、Fe触媒を用いて合成したCNTの直径と層数はFe触媒を用いない場合と同等であり、単層(SWCNT)であった。以上の結果から、あらかじめ炭素源(エチレン)ガスをFe触媒で改質することによって、SWCNTの成長効率を向上させることができる知見が得られた。 一方、本年度は前記の金属メッシュを用いたCNT合成の検証段階で、CNTを成長させる基板でない(触媒を成膜した)金属メッシュ自体に高効率でCNTが成長する現象を確認した。この結果から、上記までの概念検証ではシリコン(Si)基板を用いていたが、これを金属メッシュ基板に変更したところ、メッシュ基板はSi平面基板と比較してSWCNT収量が~8倍、平均成長(合成)速度は~5倍向上する成果も得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の欄にも記載したが、本研究の申請時の研究実施計画の通りに、1年目で①「触媒改質した炭素源ガスを利用する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)合成装置の設計と組立」および②「触媒改質した炭素源ガスを用いることによりSWCNTの合成効率が向上するという概念検証」を達成することができた。 ①については、カーボンナノチューブ(CNT)を合成する「CNT合成部」にCNTを合成するための炭素源ガスを触媒反応させる「触媒反応部」を追加しただけではなく、それにともなう炭素源(エチレン)ガス、成長賦活剤(二酸化炭素)ガス、キャリア(窒素)ガス、触媒還元(水素)ガスラインの構築や、それらを自動制御する制御装置の接続も実施することで、下記に示す概念検証をはじめ今後の本研究におけるCNT合成を効率的に実施できるようになった。 また、②については、概念検証に鉄(Fe)触媒を用いることでSWCNT成長効率が当初予定していた1.5倍を超える2.0倍まで向上する知見を得ることができた。また、この知見を得る過程で触媒担持した金属メッシュに長尺のCNTが成長したことから、これまでの平面基板(シリコン基板)から金属メッシュ基板に変更することで、SWCNT収量が~8倍、平均成長速度は~5倍向上する知見も得られた。このSWCNT成長効率は、これまで報告された平面基板を用いた常圧のCVD法の中で最も高い値であり、この知見は国内外の学会で研究成果発表(2件)し、さらに国際誌に論文発表(1件)した。
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今後の研究の推進方策 |
1年目で概念検証を完了したが、炭素源ガスを改質する鉄(Fe)触媒に炭素不純物が堆積し、炭素源ガスを改質する触媒活性が低下することが明らかになった。この結果は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の成長効率を向上させるためには、触媒反応部を800℃前後まで加熱が必要であり、この加熱温度の上昇により炭素源(エチレン)ガスが熱分解してしまうことに起因していると考えている。そこで、今後は炭素源ガスの改質をより低温で実施するために、低温で触媒反応する白金やパラジウムなどの貴金属触媒でSWCNTの合成効率が向上するかを検討する。その後に研究実施計画の通りに炭素源ガスの触媒改質条件およびSWCNT合成条件の最適化を実施する予定である。さらに、ガスクロマトグラフィーを用いて成長効率が向上する条件下におけるガス種を特定することで合成効率が向上する要因(ガス)を特定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では1年目でガスクロマトグラフィーを用いたガス分析を実施するために、ガスクロマトグラフィー装置のメンテナンス(45万円)を計上していたが、研究の進捗によりこの費用が不要となったため。 次年度では、触媒改質条件および合成条件の最適化において現在の合成装置の改造が必要であると考えており、その装置改造に使用する予定である。
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