研究課題/領域番号 |
17K14093
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
香門 悠里 神戸大学, 工学研究科, 学術研究員 (90773218)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子認識 / タンパク質―リガンド相互作用 / 分子インプリンティング / タンパク質認識高分子材料 / バイオマーカータンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究では、構造類似性の高いタンパク質として血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のアイソフォームVEGF165と189に着目し、高精度で識別可能な分子認識場をもつタンパク質認識人工高分子材料(分子インプリントポリマー;MIP)の創製を目指す。 29年度では、MIP創製で重要な相互作用官能基として、各VEGFに共通するドメインであるヘパリン結合ドメイン(HBD)を認識するヘパリンと、HBD以外のアミノ酸残基と相互作用する官能基をもつ機能性モノマーの検討を行い、VEGF165を標的としてMIP薄膜作製を試みた。 精密な分子認識を達成するために、ヘパリンの分子鎖長・分子量分布がVEGF認識に与える影響について検討した。分子量1800-12000の範囲で分子量分布の異なる4種のヘパリンを準備し、これらを金基板に固定してVEGF165認識能を表面プラズモン共鳴(SPR)測定により評価したところ、分子量分布幅が最小のヘパリン(Mw10000~12000)に対して最も高い結合親和性(解離定数:約70 nM)を示すことが分かった。このヘパリンと重合開始基を同時に固定した金基板にVEGF165を結合し、機能性モノマーとしてメタクリル酸をHBD以外の塩基性アミノ酸残基に相互作用させて複合体を形成した。親水性コモノマー、架橋剤を添加して膜厚が約10 nmとなるよう表面開始原子移動ラジカル重合を行った後、残存するVEGF165を除去してMIP薄膜を得た。SPR測定より、VEGF165の結合親和性は単なるヘパリン固定基板に比べて10倍以上向上し、さらに、ヘパリン固定基板ではVEGF165と189の識別能はなかったが、MIP薄膜はこれらを約50%の精度で識別した。以上からヘパリンとカルボキシ基といった2種の相互作用部位をもつ分子認識場の構築が構造類似性の高いタンパク質の識別に効果的である重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に沿ってほぼ予定通り研究は遂行しており、一定の成果が得られた。平成29年度に予定していた「機能性モノマーの設計と合成」について、蛍光検出を指向した蛍光分子を含む機能性モノマーの検討には至らなかったが、非蛍光性の機能性モノマーを用いて作製したMIP薄膜において、ある程度の実験結果が得られため、特に大きな遅延につながることはないと考えている。さらに、今後の実験遂行のための重要な基礎知見が得られたことからも、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、分子量分布10000~12000のヘパリンとメタクリル酸を用いたVEGF165のMIP薄膜の形成により、約50%の精度で非標的であるVEGF189と識別可能であることが分かった。今後は、さらなる分子認識能向上のため、ヘパリンの分子鎖長についてさらに厳密に制御するとともに、機能性モノマーの導入方法などについても検討し、研究計画内容を遂行していく。研究を遂行する上で、ヘパリンの分子鎖長の制御が困難な場合はヘパリンに類似した構造を有し分子鎖長の制御が容易な分子についても検討することを考えている。上記を総合的に検討してあらたな知見を得ることにより、平成29年度に作製したMIPよりもさらなる高感度化および高選択的な分子認識能の達成を目指す。
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