本年度は、標的とした血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のアイソフォームVEGF165とVEGF189のさらなる識別能の向上のため、分子量がMW 665と1800で各VEGFのヘパリン結合ドメインの大きさに近しい単分散ヘパリンに着目し、分子認識ナノ空間の構築を検討した。前年度で最適化した還元的アミノ化反応により、各ヘパリンの片末端にチオール基を高収率で導入した。SPRセンサチップに各ヘパリンを固定してVEGF165、VEGF189に対する結合親和性、選択性を比較検討した。pH 7.4の緩衝液を用いたSPR測定結果により、VEGF189はMW 1800のヘパリンに(解離定数 83 nM)、VEGF165はMW 665のヘパリンに(解離定数 15 nM)それぞれ優先的に結合した。このことから、各VEGFの識別にはヘパリンの分子量(大きさ)が重要であることが分かった。また、各VEGFの形状に適したナノ空間を構築するために、ヘパリンと相互作用したVEGFに対して、可逆的な共有結合であるジスルフィド結合を介して重合官能基を導入する反応条件を検討した。各VEGFに対するナノ空間構築についてさらなる条件検討が求められるが、目的とするVEGF識別アレイを構築するための基礎知見が得られたと考えられる。 本研究期間全体を通して、ヘパリンによる各VEGFのヘパリン結合ドメインの認識能と、分子インプリンティングによるサイズ・形状認識能を組み合わせてVEGFアイソフォームを識別する分子認識高分子材料の合成に成功した。さらなる高感度・高選択性が求められるが、アミノ酸配列の相同性が87%と非常に高いタンパク質でも高感度で識別できる人工高分子材料を創製したのは、本研究が世界で初めての例である。
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