研究課題/領域番号 |
17K14103
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 和也 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (20734297)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 垂直磁気異方性 / トンネル磁気抵抗素子 / スピン軌道トルク / マンガン合金 |
研究実績の概要 |
本研究ではサブミリ波帯域(300 GHz 以上)で低電流発振可能な高周波発振/検出デバイスの実現に向けた高垂直異方性磁界(Hk)トンネル磁気抵抗素子を開発する。具体的にはMn系合金極薄膜の成長技術を元に、Hkが10テスラ以上となる垂直磁化型トンネル磁気抵抗素子を開発し、スピン軌道トルクなどの発振アシスト技術の確立に向けた要素技術の研究も合わせて行う。 H29年度は、Hkが10テスラ以上を示す垂直磁気トンネル接合の強磁性電極の開発を行った。膜厚が1ナノメートルであるL10構造マンガンガリウム電極とトンネル障壁層である酸化マグネシウム層の間に1ナノメートル以下のマンガン層を挿入することによりトンネル磁気抵抗比が3%から20%程度まで増大し、Hkは1テスラから11テスラまで増大、垂直磁気異方性定数が0.3 MJ/m3から1.2 MJ/m3程度まで増大することを見出した。透過型電子顕微鏡による素子断面構造の解析から、電極層はマンガンガリウム/マンガン構造となっていることを明らかにした。さらに、下地となるマンガンガリウム層をD022構造とすることにより、Hkが10テスラ以上まで増大することを確認し、本研究の第一目標であるHkが10テスラ以上となる垂直磁化トンネル磁気抵抗素子の開発に達成したといえる。また、マンガンガリウム/マンガン電極層の下地層となるCoGaを用いたスピン軌道トルクの調査を行ったところ、重元素を用いていないにもかかわらず、垂直磁化マンガンガリウム層の磁化反転に成功し、マンガンを挿入した電極構造においてもスピン軌道トルクによる磁化反転可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画以上の進捗である。H29年度の目標である10T以上のHkを持つ垂直磁化強磁性電極の開発をマンガンガリウム/マンガン二層構造の開発により達成した。現在は、さらなるHkの増大を目指した新規積層構造の探索と素子特性の向上を行っている。 時間分解型磁気カー効果測定による磁化ダイナミクスの測定により、Hkの大きさに対応した磁化の歳差運動を観測したものの、電極材料の低飽和磁化、膜厚、巨大なHkによってシグナルを精度よく観測することが困難だったため、ダンピング定数などの定量的な評価には至っていない。 また、H29年度でマンガンガリウム極薄膜の成長に必要なコバルトガリウム下地層からのスピン軌道トルクにより、マンガンガリウム層の磁化反転を実証し、マンガンガリウム/マンガン構造の電極においても磁化反転を観測した。現在は、H30年度に実施予定であるスピン軌道トルクの大きさの定量評価、および成膜プロセスの改良によるスピン軌道トルクの増大を前倒しして実施している。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の計画に基づき、異常ホール効果測定を用いたCoGa からのスピン軌道トルクの定量的評価を行う。そして、その結果に基づき、コバルトガリウム層の成膜プロセスや重元素添加などの方法により、スピン軌道トルクの増大を試みる。また、3端子型トンネル磁気抵抗素子の作製を推進し、デバイス加工技術の改良を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題において、マンガンガリウムトンネル接合における磁気異方性とトンネル磁気抵抗効果を飛躍的に増大させることで超高周波デバイス素子に用いるトンネル接合素子の高性能化を目的とした研究を進めている。 当初計画では素子の高性能化の過程で、超高真空卓上型ランプ加熱装置による試料の改質を行う予定だったが、研究の進捗により、トンネル接合の磁化状態に依存したダイナミックコンダクタンスの高精度測定を可能とするケースレー社製のAC/DC電流源とナノボルトメータを導入するほうが、当該科研費課題の目標を達成するにあたり有用と判断した そのため、超高真空卓上型ランプ加熱装置とAC/DC電流源とナノボルトメータの購入金額の差額から次年度使用額が生じた。また、電子顕微鏡観察および旅費を共同研究による別予算によって措置したため、次年度使用額が生じた。
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