研究課題/領域番号 |
17K14105
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
重松 圭 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (40754578)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | エピタキシャル / 酸化物 / 正方晶歪み / ペロブスカイト |
研究実績の概要 |
パルスレーザー堆積法を用いて、単結晶ペロブスカイトSrTiO3基板上にBaVO3、ならびにSr置換したSr1-xBaxVO3薄膜を作製した。高圧合成法により得られる立方晶ペロブスカイトBaVO3では、上記の基板上には成長が確認できなかった。そこで、SrVO3からBa置換量を増やして製膜条件を探索したところ、Ba置換量が増えるほど、バナジウムの高酸化数の不純物が生成しやすいことが明らかになった。この不純物は、還元雰囲気下の製膜によって低減できる傾向も見出された。 上記の製膜条件の検討を踏まえて、より格子定数が小さなペロブスカイトを基板に用いることで、格子整合による圧縮歪みを印加し、Sr1-xBaxVO3薄膜をより正方晶化することを試みた。さまざまな単結晶基板上にSr1-xBaxVO3薄膜を作製したところ、SrTiO3よりも格子定数が小さいLSAT基板上に、基板と面内格子定数が整合したSr1-xBaxVO3薄膜が得られた。面直-面内格子定数比c/aはBa置換量に対して増加し、x=0.6では1.04に達した。また、Ba置換量のことなる薄膜において、電気抵抗率の温度依存性を調べたところ、Ba置換量の増大に伴って電気抵抗率の値が上昇し、低温において絶縁体化する傾向が確認された。一方、LSATよりもさらに格子定数の小さいLAO基板にSr1-xBaxVO3薄膜を作製した場合は、薄膜が完全に緩和しており、エピタキシャル応力によるc/a比の増大は生じなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パルスレーザー堆積法による製膜の結果、Aサイトが完全にBaであるBaVO3の薄膜は得られなかったが、AサイトにBaが置換されたSr1-xBaxVO3薄膜を得ることができ、エピタキシャル応力による圧縮歪みを利用して、c/a比が1より大きい薄膜を実現することができた。しかしながら、Baの置換量が大きくなるほど高酸化数側の不純物が生成しやすくなり、プロセスウインドウが狭くなった。また、Ba置換量が多い試料では、臨界膜厚が小さくなる傾向が示唆された。このため、正方晶相の物性評価方法が計画当初よりもそれほど容易でない可能性が予想されるため、実験方法を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
パルスレーザー堆積法によるBaxSr1-xVO3薄膜の合成条件はおおむね確立したが、Ba置換量のより大きな試料における条件の最適化、あるいは臨界厚さ程度の薄膜の作製を検討する。また、現在得られている試料は、低温においてc/aの増大に伴う電気抵抗の絶縁体化が見られているが、室温では以前金属的な挙動である。低温における物性評価の方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額のうち主な用途は、薄膜作製用パルスレーザー堆積装置ならびに薄膜試料評価装置の不良に対応するための修理費・部品費である。修理の一部が年度内に終了しないため、次年度への繰越しが発生した。
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