研究課題/領域番号 |
17K14109
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大西 紘平 九州大学, 理学研究院, 助教 (30722293)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超伝導体 / スピントロニクス / スピン注入 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、超伝導近接効果によりクーパー対が形成された非磁性体中へのスピン中を行い、それによるスピン偏極超伝導電流を実現することである。そのうち昨年度は、以下のような成果を得た。 1. スピン注入によって生成された非平衡状態にあるスピン偏極電子による超伝導状態の変化を確認した。具体的には、超伝導体/常伝導体二層膜上に3つの強磁性体ピラーを作製し、そこに電流を流すことでスピン注入を行い、同時に、常伝導体層の抵抗を測定することにより超伝導近接効果の変化を見積もった。ここで、複数の強磁性体ドットを用いてその磁化配列を制御することにより、ジュール熱による影響をスピン偏極電子による影響をそれぞれ解析可能とした。その結果、スピン偏極電子によって超伝導近接効果が抑制される様子を抵抗変化から観測できた。 2. 高スピン偏極材料であるCoFeAlを用いて作製したナノピラー型スピンバルブ構造において、CoFeAlの有効性を確認した。NiFeを用いた同様の構造と比較して、より小さいジュール熱でスピン注入が可能となったことから、温度依存性および励起電流依存性の測定が可能となった。その結果、超伝導体/常伝導体界面に形成する超伝導ギャップが超伝導転移温度以下において緩やかに形成される様子を、スピン信号で観測することに成功した。また、転移温度近傍において、非局所スピンバルブ測定のベース抵抗が、温度および外部磁場に非常に強く影響を受ける様子も確認できた。 これらの成果は、論文にまとめ、掲載許可済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、スピン偏極超伝導電流を誘起するためのスピン偏極エネルギー増加をおもな目的として、CoFeAlの最適化から着手する予定であった。実際にはまず、多端子のNiFeピラー構造を用いたスピンバルブ構造により、スピン注入によって超伝導状態を変調可能であることを示した。その後、CoFeAlを用いたスピンバルブ構造では高効率なスピン注入が可能であることを示した。しかしながら、所属するグループにおいて並行して行われていた実験において、CoFeAlの組成の最適化のみでは目標としていた1meVには到達できないことが予想されたため、翌年度に導入予定であったNbNの成膜を進めることとした。これは、これまで用いてきたNbよりも高い転移温度を有するNbNを用いることにより、より高い励起電流によるスピン注入を実現するためである。NbNの成膜はこれまでNbのスパッタを行っていた装置に窒素ガスを導入することで行い、その分圧を制御することで、高い超伝導転移温度を有するNbN薄膜の成膜を可能とした。その結果、超伝導体/常伝導体界面に形成される超伝導ギャップの飽和に対応するスピン信号の変化を初めて観測するなどの結果が得られており、それらは現在、論文にまとめているところである。 以上のことから、概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
二層膜構造の細線化など、構造の最適化を行うことで、より大きなスピン偏極エネルギーの生成を実現する。また同時に、本年度から強磁性体の磁化構造によってスピン偏極超伝導電流を実現していているイギリスの研究グループとも共同研究を開始しており、生成されたスピン偏極超伝導電流の測定方法についての検討も並行して進める。具体的には強磁性体を流れる際の磁化方向依存性を測定すると同時に、ジョセフソン接合構造などを用いて位相変化を観測する。これらの相関から、スピン偏極超伝導電流の観測手法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたCoFeAlの最適化とNbNの成膜実験の順序を入れ替えた結果、次年度に真空チャンバーの増設などを行うこととなったため。
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