研究課題/領域番号 |
17K14110
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
奥村 宏典 筑波大学, 数理物質系, 助教 (80756750)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / パワーデバイス / 高温デバイス / イオン注入 / 不純物拡散 / 有機金属気相成長法 / 高温成長 / 結晶品質 |
研究実績の概要 |
本研究では、窒化アルミニウム(AlN)を基盤とした高出力デバイスの実現を目指す研究を行った。以下に本年度に得られた成果をまとめる。 (1)AlNへのイオン注入と高温アニール処理:AlN層にSiイオンを高ドーズ(5e14cm<-2>)で注入し、窒素雰囲気で30分間の高温熱処理を行った。熱処理後の表面モフォロジを原子間力顕微鏡により観察し、不純物の拡散分布を二次イオン質量分析法により調べた。1400度の熱処理でもSiは殆ど拡散せず、1nm以下のRMS表面ラフネスが得られた。1600度以上の熱処理でSiが内部に拡散し始め、1800度で熱処理したときはAlNの分解が見られた。 (2)AlNの電気的特性評価:Siイオン注入及び1230度の高温熱処理を行ったAlN試料の電気的特性評価を行った。オーミック性接触は得られなかったが、室温で数uAの電流が流れることを確認した。電流は測定温度の上昇と共に急激に増大した。非常に高い接触抵抗が、AlN層の電流を制限していると考えられる。 (3)AlNをチャネル層としたトランジスタの初動作:イオン注入したAlN層をキャリア輸送層とし、電界効果トランジスタ(MESFET)を作製した。動作電流は数uA/mm程度であるが、ゲート電圧で電流を制御することができ、トランジスタ動作が確認された。また、250度の測定温度でも安定にトランジスタ動作した。高電圧の逆バイアスをかけたところ、2kV以上の高耐圧特性が得られた。以上より、高温・高耐圧デバイス用材料としてAlNが非常に有用であることが示された。 (4)窒素極性面AlNの高品質結晶成長:有機金属気相成長(MOCVD)法により、炭素面の炭化ケイ素(SiC)基板上にAlNを結晶成長した。V/III比と結晶成長温度、基板のオフ角度を制御することで、デバイス作製に十分な結晶品質を有する窒素極性面AlNを成長することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、イオン注入法を用いて電気伝導性を有するAlN層を実現するとともに、AlNトランジスタ動作にも成功した。また、窒素極性面AlNの高品質結晶成長にも成功しており、これらの点では非常に順調に進展しているといえる。一方で、AlN中でのSiのイオン化エネルギが非常に大きく、オーミック性接触が得られていない。MOCVD法により成長したn型高Al組成AlGaN層の電気的特性を調べたが、それでもオーミック性接触が得られなかった。そのため、ホール効果測定や伝送線モデル測定ができず、n型AlN層の電気的特性を正確に評価できていない。また、分子線エピタキシ法を用いてAlGaNコンタクト層の再成長を行う予定であったが、どの共同研究者らも提案内容に大変興味を持って頂いたものの多忙であったため、遂行まで至らなかったことは至極残念である。高Al組成AlGaN層の電気的特性評価は今後の課題である。全体を通してみれば、AlNトランジスタの世界初動作に成功し、高温・高耐圧特性に優れていることを初めて示すことができた。このように、パワーデバイスや高温デバイス分野で世界水準の成果を挙げつつおり、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の計画通り、窒素極性面AlN層を基盤としたパワーデバイスの作製と、今回達成できなかったAlN層の接触抵抗低減を行う。AlNをチャネル層としたデバイスは、高い接触抵抗と低い移動度が課題であった。窒素極性面高Al組成AlGaN層を有する高電子移動度トランジスタ(HEMT)構造を用いることで、移動度の向上と接触抵抗の低減が期待できる。同程度の耐圧を維持しながら高い動作電流が得られれば、AlN系トランジスタの普及に繋がる。今回得られた窒素極性面AlN層上に高Al組成AlGaN層を結晶成長し、HEMTの試作と高耐圧特性評価を行う。また、後者のAlNの電気的特性に関する知見は、パワーデバイスだけでなく、深紫外発光素子にも重要である。方法としては、イオン注入および高温アニール条件とともに、オーミック性接触電極構造の最適化を行う。研究計画の変更は予定していない。
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