フェムト秒レーザーを半導体や金属に照射することで、照射したレーザーの波長より短い周期の周期構造が形成される。この周期構造形成には、材料表面でのプラズマ状態変化が寄与していることが示されているが、詳細のダイナミクス解明は今も継続的な課題である。本研究では、レーザーのパルス数や繰り返し周波数を制御する光学システムを構築し、レーザーが被照射材料に与える影響を詳細に調べることで、光吸収と周期構造形成のダイナミクス理解に取り組んだ。 結果、周期構造は1ショット照射では形成されず、多重パルス積重が必要であることが分かった。Si基板においては、ガウシアンビームの一部のみでも重複している場合、ビームの全域に周期構造を形成した。つまり、アブレーション領域を超えて電場の分布が発生していることが分かった。 また、被照射材料による違いを調べた結果、周期は被照射材料によって異なることに加え、形状が同様でも結晶状態は材料によって異なることを明らかにした。例えば、SiC基板に形成した周期構造は基板と違わない結晶質を維持しているのに対し、SiやGaAsは数10nmサイズの結晶粒子の集合である多結晶状態であった。この多結晶状態は、一度結晶が融解し再結晶化したと考えるが、今後これらの結晶状態の変化をその場観察と理論的考察と併せて詳細に解明していく。 さらに、レーザー誘起周期構造の光・電子デバイスへの応用を試みた。ナノ構造は量子サイズ効果によりデバイスに新たな特性を付与でき、光デバイスでは発光波長シフトや発光効率向上が知られている。窒化物半導体系LED構造にレーザー誘起周期構造を形成したところ、元の積層膜の結晶質を維持したまま約75nm幅の周期構造を形成した。さらなる細線化のためKOHによるエッチングを行ったところ、その幅は約18nmになった。詳細な光学特性評価と構造の最適化は今後の課題である。
|