研究課題/領域番号 |
17K14112
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
麻川 明俊 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (90757337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | その場観察 / 水熱合成 / 結晶成長 / 炭酸塩 / ノルセサイト |
研究実績の概要 |
・水熱環境その場観察チャンバー作製に用いる窓材の検討 レーザー共焦点微分干渉顕微鏡と原子間力顕微鏡を融合した顕微鏡を用いて、水溶液中の劈開した市販のカルサイトやジプサムの単位ステップをナノ結晶セラミクスの窓材を通して観察可能か調べた。その結果、ジプサム(010)面の7Å高さの単位ステップを窓材越しに観察ができた。更に、市販の水熱反応器を用いて選んだ窓材がアルカリの水熱環境にも耐えることができるとわかった。
・大気圧下で水溶液から成長するノルセサイトの結晶成長 本研究ではノルセサイトの単位ステップをすぐに観察せず、光学顕微鏡観察とXRD測定により、まずノルセサイトの生成機構の概要を調べた。その結果、我々の成長条件(混合前0.2M塩化バリウム、0.2M塩化マグネシウム、0.125M炭酸水素ナトリウム)では、塩化バリウムと塩化マグネシウムを炭酸水素ナトリウム水溶液に混ぜた瞬間、炭酸バリウムがはじめに生成した。その後ノルセサイトは炭酸バリウムから液相媒介相転移によって生成すると分かった。また、ノルセサイトの誘導期は30h (80℃)~300h(60℃)で、成長速度(70℃)は3 nm/min程度であった。 更に、ノルセサイトを純水中に添加し、溶解実験を行った。pH計測よりノルセサイトは60℃ではおよそ360hで、80℃では140hで完全に溶解すると分かった。そこで、溶解完了後の上澄み液をICP発光分光測定と全有機炭素測定(赤外分光を用いた炭素量の計測)した。その結果、ノルセサイトの溶解度積は種々の温度で16~17程度とわかった。更に溶解度積は温度の増加に伴い減少した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・水熱環境その場観察チャンバー作製 平成29度は、液中で耐圧・耐熱の窓材を通してレーザー共焦点微分干渉顕微鏡を用いてステップが観察できることを確認できた。現在、有効性を確認した窓材を用いて、チャンバーの作製に着手している(本年度6月末~9月完成予定)。このように、水熱環境での単位ステップのその場観察について装置面での問題をおおかた解消することができた。
・大気圧下で水溶液から成長するノルセサイト結晶の結晶成長 ノルセサイトの単位ステップを観察するためには、低過飽和条件下(相対的に低活量積)で結晶成長を観察しなければならない。そのため、溶解度の計測が必要不可欠である。しかしながら、予備実験からノルセサイトの成長速度は遅く、溶液中でノルセサイト以外にもアモルファス、炭酸バリウム、その他3種類以上の構造物が生成する可能性があるとわかったため、結晶の外形や干渉縞の前進・後退からの溶解度の決定は困難を伴うと判断した。そこで、ICP発光分光測定や全有機炭素計測を用い、ノルセサイトの溶解実験から溶解度を計測する方針に切り替えた。更に、ノルセサイトの結晶成長が非常に複雑だと予備実験でわかってきたので、すぐにステップレベルでの理解を推し進めるよりも、まずノルセサイトの生成機構を俯瞰して知ることの方が有効であると判断した。そのため、当該年度では大気圧下でのノルセサイトの結晶成長をステップレベルで観察するに至らなかった。 以上の様に溶解度の計測やノルセサイトの結晶成長のその場観察において、想定以上の困難が生じた。そのため、測定方法や研究の方向性に試行錯誤する必要があり、進捗が若干遅れる状況となった。しかしながら、当該年度の成果は今後の研究の基礎となるため、やむをえないものであった。
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今後の研究の推進方策 |
・大気圧下でのノルセサイトの結晶成長をステップレベルで観察 平成29年度得られた溶解度やノルセサイトの結晶成長機構を基に、大気圧下でのノルセサイトの結晶成長をレーザー共焦点微分干渉顕微鏡でその場観察する予定である。しかしながら、ステップ間隔が狭く、レーザー共焦点微分干渉顕微鏡でノルセサイトのステップの観察が難しい場合も想定し得る。その場合は、干渉計を用いて、ノルセサイトの(001)面の面成長速度を計測していく予定である。
・水熱環境でのノルセサイトの結晶成長をその場観察 水熱環境をステップレベルで観察できるチャンバーが本夏ごろまでに完成する予定である。そのため、出来上がったチャンバーを用いて、実際にレーザー共焦点微分干渉顕微鏡で水熱環境でノルセサイトのステップを観察できるのかを確認する予定である。 水熱環境でのノルセサイトの結晶成長を観察できるようになれば、まず装置が耐えうる最も高温・高圧成長条件(例えば25MPa、150~250℃付近)でノルセサイトの結晶成長を観察する予定である。大気圧下の場合と同様、水熱環境での結晶成長の概要をつかむため、溶解度、面成長速度、結晶のモルフォロジーなどの基礎的な物理量の取得に着手する。計測が軌道に乗り始めた段階で、ステップレベルでの観察や圧力の低い条件(5、10MPa)での同様の観察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、当該年度に水熱環境下で観察可能なチャンバーを購入する予定であった。しかしながら、購入予定のチャンバーを窓材の厚さを後程変更できない構造のものにすることとなったため、急遽観察チャンバーの水熱環境でのアルカリ耐性や光学特性を確認する必要があった。更に、観察用チャンバーに用いる窓材の光学特性の確認には、標準サンプルの準備やレーザー共焦点微分干渉顕微鏡は徳島大学や北海道大学に出張する必要があったため、確認に時間を要する結果となった。
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