研究課題/領域番号 |
17K14115
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大江 弘晃 金沢大学, 数物科学系, 博士研究員 (20793194)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | FM-AFM / 水和構造 / 潮解性表面 |
研究実績の概要 |
大気環境に曝した固体表面には、大気中に存在する水分子が吸着し、厚さがナノメートル単位の極めて薄い水膜が形成される。本研究の目的は、このような水薄膜下の固液界面で生じる、固体の溶解・析出過程の解明である。そのために、加湿した大気中で、潮解性物質KBrを試料とした周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)計測を行い、KBr-水界面の特性を解析する。 今年度は、まず再現性良く原子分解能計測が行えるよう装置を改良した後、異なる湿度でのKBr(100)-水界面の水和構造観察を行った。装置改良は以下のように行った。高湿度で計測回路が動作不良を起こすことを防ぐために、装置全体に防湿処理を施した。表面観察に用いる力の検出感度を向上させるために、力センサー変位検出回路の低雑音化を行った。外部振動が計測データに与える影響を低減するために、除震機構を見直した。表面走査時に生じる装置全体の共振を抑制するために、フレーム剛性を向上させた。これらによって原子分解能が再現性良く得られるようになった。 これまでにKBr(100)表面の観察は相対湿度(RH)20%から80%の大気中で行った。マイクロメートル単位の二次元走査の結果、RH30%では鮮明なステップテラス構造の観察像が得られたが、RH40%を超えると徐々にステップ端が不安定化した。また、ナノメートル単位の境域走査と面直方向の力分布計測から、RH40%以上では固液界面に複数層の水和構造が形成されており、RH60%以上では水和構造の上に流動的な水の層が形成されていることが分かった。これらの結果は、RHが約40%の時に、KBr(100)-水界面特性に大きな変化が生じていることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
潮解性物質表面および固液界面の水和構造の原子単位解析は本研究によって切り開かれている。本研究では高湿度大気環境でFM-AFM計測を行うために装置改良に取り組み、湿度制御しながら再現性良く原子単位の相互作用計測を行えるようにした。 湿度を制御しながらKBr(100)を試料としたFM-AFM計測を行い、ステップテラス構造を対象とした広域走査では鮮明さが湿度に依存して変化することを明らかにした。異なる湿度で試料面直方向の力分布計測を行い、RHが40%を超えるとKBr表面に複数層の水和構造が形成され、KBr結晶のいわゆる溶け易さが急激に変化することを明らかにした。 これらはおおよそ研究計画通りの進捗状況であり、本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、湿度変化に伴うKBr-水界面特性の詳細解析を進める。その際、およそRH40%で生じる固液界面の特性変化に特に注目する。また、解析結果をもとに、KBrおよび水和水分子に印加する力を精密に制御し、潮解性物質KBrの溶解/析出過程の力学的制御を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に購入したセラミック材の最小ロット価格が想定より高く、残額が学内工作施設での工作費用に不足した。そのため、加工依頼を翌年度に延期し、残額が生じた。
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