大気環境に曝した固体表面には、大気中に存在する水分子が吸着し、厚さがナノメートル単位の極めて薄い水膜が形成される。本研究の目的は、このような水薄膜下の固液界面で生じる、固体の溶解・析出過程の解明である。そのために、加湿した大気中で、潮解性物質KBrを試料とした周波数変調原子間力顕微鏡(FMAFM)計測を行い、KBr-水界面の特性を解析した。 探針試料間距離を掃引して取得したKBr面直方向への力分布計測から、RH45%程度を境に吸着水膜の厚みが増大した。RH30%-45%では、KBr(001)面テラス上に水膜は検出できなかった。RH50%-60%では、KBr-探針間に厚さ約3nmの水膜が生じた。水膜の構成は、4層の水和層(厚さ約1nm)と液体的な水の層(厚さ約2nm)であった。液体的な水が存在する表面状態で、AFM探針を用いてKBr結晶表面に力を印加すると、探針直下の微小領域でイオン溶解を誘起できることを明らかにした。力に誘起された結晶溶解を面内方向の二次元走査に応用し、最表面よりも深い領域のKBr(001)面を原子分解能で観察できることを実証した。 RH30%-45%で取得したマイクロメートル単位の二次元走査では、KBr(001)面ステップテラス構造に加えて、ステップ端から探針走査方向に延びた帯状の構造を検出した。帯状構造のサイズは湿度の上昇に伴い増大したため吸着水由来といえる。原子フラットなテラス面は水分子1つないし2つの均一な水膜で覆われていること、余剰な吸着水はステップ端に蓄えられること、水アイランドとしてはテラス上に安定に存在しないことを明らかにした。
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