研究課題/領域番号 |
17K14116
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
フロランス アントワーヌ 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30628821)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゲルマネン / スタネン |
研究実績の概要 |
本研究課題は、理論的に予測されるそのトポロジカルな性質を測定可能なGe製グラフェン様二次元材料「ゲルマネン」の作製を目的としている。そのために必要なのは、ゲルマネンを成長するための適切な基板を見つけることである。 平成29年度は、ZrB2上シリセンを基板としてGeを蒸着し、 ゲルマネン作製を試みた。その過程で、シリセンの格子にGe原子が取り込まれたシリセン-ゲルマネン原子層混晶が形成され、Geの固溶量は、Si原子 5に対してGe 原子1のときに飽和することが走査トンネル顕微鏡(STM)観察と内殻光電子分光測定により明らかとなった。この原子層混晶に関して、角度分解光電子分光(ARPES)を用いて、Ge固溶量をパラメータとした電子状態変化を測定したところ、シリセン由来のバンドの分散幅がGe量に応じて増大する様子が観察された。ダイヤモンド構造のバルクSi-Ge混晶と同様、蜂の巣格子においても混晶によるバンドエンジニアリングが可能であることが実証された。 Ge 蒸着量を、固溶限を超えて増やすと、シリセンに代わって様々な別の二次元構造が表面を覆う様子がSTMにより観察された。これらの構造の詳細は現時点では不明であるが、結晶の回転対称性がゲルマネンと異なることが明らかとなった。 また、ZrB2上に形成された絶縁性原子層六方晶窒化ホウ素(hBN)上にGe を蒸着し、ゲルマネンの形成を試みた。室温で蒸着したところ、アモルファス層が形成され、蒸着後に加熱したところ、hBN層に欠陥が生じた。この不安定性から、ZrB2上hBNは基板として適当ではないと結論した。 以上のゲルマネン作製の試みと並行して、トポロジカルな性質をより高温で観測できることが期待されるスタネンの作製を試みた。InSb(111)ウェハを基板としてSnを蒸着したところ、結晶性に優れた一原子層、二原子層厚みのSn層を成長できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SiとGeからなる混晶蜂の巣格子を作製し、その電子状態が混合比に応じて変化することを実験的に明らかにしたことは、注目すべき成果である。現在、論文を作成中である。 また、シリセン、および、hBN をバッファ層としたZrB2上へのゲルマネンの成長は、期待できないことが明らかとなった。 ゲルマネンとの格子整合性に優れた半導体層状物質であるInSeの薄膜を成長する準備として、pBNるつぼを購入し、カルコゲナイド薄膜の成長に利用している超高真空分子線エピタキシー装置の既設置のKセルにInを導入した。Se用のKセルは既に導入されているため、これでInSe薄膜の成長が可能となった。 トポロジカルな性質を測定するためには、ゲルマネンの表面を不活化し、酸素との反応を抑制する必要がある。水素終端を一つの方策として考えており、現在ゲルマネンの成長とSTM観察を行なっている超高真空装置に原子状水素源を導入し、条件出しを終えた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、Si(111)上にInSe薄膜をエピタキシャル成長する実験を進める。表面が平坦、かつ、結晶性に優れた薄膜が得られる条件を見出す。その後、最適化されたInSe薄膜を、ゲルマネンの成長を行なっている超高真空チャンバーに移送してGeの蒸着を行い、STMにより評価する。ゲルマネンである可能性がある二次元状Ge層を成長することができたら、放射光施設において同様の蒸着実験とARPESによる電子状態測定を行い、自立したゲルマネンについて理論で予測されるのと同様のバンド構造を有するのか、を明らかにする。 また、並行してInSe 上のGe層と、InSb上のSn層の大気中での安定性を調べ、特に後者の安定性が確認されたら、放射光施設におけるARPES測定を行う。大気中で酸化されてしまうようであれば、水素終端による不活化、および、酸化物による保護膜の作製に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年5月にカナダで、6月にオランダで開催される国際会議で招待講演を行うための旅費を確保するために、平成29年度予算の一部を平成30年度に移行した。 また、ゲルマネンの成長に使用しているSTM装置の一部の機能が故障し、業者に不具合を確認してもらったところ、部品の調達に時間がかかり、修理が完了するのはどうしても平成30年度になる、ということだったので、修理費用として平成29年度予算の一部を平成30年度に移行した。
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