研究課題/領域番号 |
17K14118
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
斉藤 光 九州大学, 総合理工学研究院, 助教 (50735587)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / プラズモニック結晶 / 電子顕微鏡 / カソードルミネッセンス |
研究実績の概要 |
本研究ではプラズモニック結晶と蛍光物質とを組み合わせるが、従来構造である凹凸金属表面上にそのまま蛍光物質を成膜しようとすると、材料選定や成膜方法に制約が生まれる。そこで従来のように凹凸金属表面上に蛍光物質を配置するのではなく、平坦な金属表面と金属ナノ粒子の周期配列の間に蛍光物質を挟む、金属ナノ粒子配列-発光層-金属平面構造を新たに検討することにした。これまでに同構造のプラズモニックバンドについての十分な知見がないため、本研究ではまず走査型透過電子顕微鏡-カソードルミネッセンス(STEM-CL)により同構造を分析した。プラズモニックバンド解析用のモデル構造として発光層の代わりに二酸化珪素薄膜を配置し、金属ナノ粒子配列として三角格子状にAlディスクを配列したものを作製した。STEM-CLにより、プラズモニックバンドの分散関係を分析すると、表面垂直方向への発光に表面プラズモンポラリトンが変換されるΓ点においてバンドギャップが開くことが確認され、従来の凹凸表面型の構造と同様にバンドギャップを利用した様々なバンドエンジニアリングへと展開できる可能性が示唆された。状態密度が高くなるバンド端における固有モードの空間分布を測定すると、それらは群論により説明できる対称性を有していることがわかり、さらに各固有モードのエネルギー準位の構造パラメータ依存性を調べたところ、Alディスクの局在型プラズモンモードと三角格子のBlochモードとの結合を示す挙動が観測され、その結合がバンド分散を制御する支配因子であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標は発光層との組み合わせを想定したプラズモニック結晶の構造及び作製方法を最適化することであったが、これについては概ね達成することができている。研究計画当初は従来構造である凹凸金属表面上に発光層を直接成膜することを想定していたが、平坦な金属平面上に発光層を成膜し、その上に金属周期構造を作製する方が容易であり、材料選定や成膜方法の自由度が広がる。そこで金属平面と金属周期構造との間に発光層の代わりに二酸化珪素薄膜を配置した構造を作製し、走査型透過電子顕微鏡-カソードルミネッセンス(STEM-CL)により同構造を分析したところ、プラズモニックバンドにおけるバンドギャップの形成が確認された。また、系統的実験によりバンド分散を支配する構造パラメータについて明らかになるとともに、その形成機構に金属周期構造を構成する金属ナノディスクの局在プラズモンモードと周期構造のBlochモードとの結合が大きな関わりを持つことも明らかになった。平成30年度の研究として二酸化珪素薄膜を発光薄膜に代え、プラズモンモードを介した発光の詳細を明らかにする実験を計画しているが、その実験に最初に用いる発光薄膜として電子線損傷が比較的軽度で済む化合物半導体を想定しており、その作製及び発光特性の分析も完了している。一方、本研究の最終目標である量子ドットとプラズモニック結晶とを組み合わせた構造における局所発光特性の評価を達成するには、やはり量子ドットの電子線損傷が問題となることも明らかとなり、その克服が平成30年度の研究の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究で明らかとなった量子ドットの電子線損傷という課題を克服することが平成30年度の主な取り組みとなる。その方策として測定試料の冷却、すなわち電子顕微鏡用のクライオ試料ホルダーを用いることを計画している。同技術を本研究に組み込むため、その技術を有する研究協力者の助言を基に実験を進める。また、不必要な二次電子も試料損傷の原因であるため、試料を厚い基板上に作製するのではなく、薄膜上に作製することも有効な対策であると考えられる。そこで、発光層を透過電子顕微鏡試料用支持膜に成膜し、その上にプラズモニック結晶を作製する。しかしながら、上述の対策は、クライオ試料ホルダーを用いるなどハード面での改造を必要とするため、一定の期間を必要とする。そこで研究を効率的に進めるために、上記の対策と並行して電子線損傷が軽微な化合物半導体薄膜を内包したプラズモニック結晶による局所発光特性評価を進める。化合物半導体薄膜を用いた実験では、プラズモニック結晶によって変調された光学的な局所状態密度が化合物半導体の発光緩和の高速化にどのように寄与するかを明らかにするために、STEM-CLによる局所発光測定を実施する。このような局所発光測定自体が新規な実験であることから、その測定原理を構築及び最適化し、その後の量子ドットを用いた実験にも活かす。また化合物半導体を用いた実験から得られる知見そのものが量子ドットの発光高速化の指針にもなり得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究の途中で、量子ドットの電子線損傷が課題であることが明らかとなり、それを克服するためには試料冷却下での走査型電子顕微鏡カソードルミネッセンス測定の技術を構築することが必要となった。この技術を有するフランスのlaboratoire de physique des solidesの研究グループとの共同研究の機会を得ることができ、平成30年度に同グループを直接訪問して技術交流を図ることになった。そこで、当初の予定よりも平成30年度の旅費の配分を多くするように計画を変更することになった。
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