近年の走査型透過電子顕微鏡(STEM)法ではナノメートル(nm)オーダーの格子変形が直視できるようになり、原子レベルでの構造解析における極めて有効な手法となった。一方で現在の材料科学の分野において解析対象・物性発現サイズがナノメートルサイズとなってきており、今後はさらに一桁小さいピコメートル(pm)オーダーの格子変形を計測する技術が必要不可欠となりつつある。本研究では、STEM法による高精度な画像取得、得られた画像からピコメートルオーダーでの格子変形解析手法の構築、また、その手法の材料構造解析への応用を実施した。 ペロブスカイト酸化物SrTiO3から取得したSTEM画像を用いて、構築した本手法の精度検証を行った。SrTiO3から取得したHAADF STEM像の各輝点を2次元Gaussian fittingによりサブピクセル精度で算出し、各輝点座標から各Tiイオンの幾何中心位置からのずれを算出した結果、実験誤差σは± 2 pm程度であることを確認した。次に代表的な強誘電体材料であるBaTiO3薄膜のドメイン構造解析を実施した。BaTiO3のTiイオンの変位は10pm程度であり、本手法の精度で十分に解析可能である。GdScO3上に成膜したBaTiO3薄膜のTiイオンの変位構造を解析した結果、特異なマルチフェーズナノドメイン構造が形成されることを明らかにした。 本手法は強誘電体材料だけではなく様々な材料解析へ応用可能である。今回実施した10 pm以下の格子変形は画像解析を実施して初めて認識が可能となる。このことは,これまで観察像中に僅かな格子変形が存在していたとしても,その構造を見落としきた可能性を示唆している。 言い換えれば、今後、ピコメートルオーダーの変位計測分野を発展させることで、材料本来が有する構造と特性の相関性についての理解を大きく進展させることができると考えられる。
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