研究課題
本研究で採用する自立安定性を備えた光共振器 (FFC: feedback-free cavity)は,高感度の光共振器を外部フィードバック制御系を必要とせずに共鳴維持できる画期的な手法である.しかしながら,これがどの様な形態の共振器増幅吸収分光法に適応可能であるかは全く未知であり,その道筋を確立することが最も重要な開発項目である.平成29年度は高エネ研の光共振器開発グループの協力のもと,東北大学にFFC光学系を構築することを目指した.微量水分計測のためには水の吸収線帯が存在する波長1940 nmで動作する光学系を開発することが望ましいが,まずは研究室に備品資源の豊富な波長1.04 μmで開発を行うことにした.この波長は二酸化炭素の炭素同位体比を検出するのに適した波長帯であることから,本方式が幅広い吸収分光計測に応用可能な技術であることを示すのにも好都合であると言える.開発の結果,フィネス54000(感度の増大係数として17000倍)の連続動作のFFC光学系を構築することに成功した.過去に我々が開発したFFC(APL Photnics 1,026103, 2016.)に比べて増大係数は低いが,各設計パラメータを見直すことで光軸のミスアライメントに対して高い安定性を得ることができた.その結果,共振器内部に基本ガウシアンビーム(TEM00)のほか,選択的に高次のエルミートガウシアンビーム(TEM01, TEM02)を蓄積できることを確認した.この特性は例えば電子加速器におけるビームサイズモニタなどに応用が可能である.連続動作の光学系に並行して,光コム分光法への応用が期待されるモード同期パルス動作のFFC光学系の開発にも取り組んだ.高エネ研のグループでは既に低フィネスのFFCが実現しているが,フィネスが1000を越える系の開発は未だ実現しておらず,現在も開発を継続中である.
2: おおむね順調に進展している
平成29年度はFFC光学系を構築することが最大の課題であり,これを達成することができた.ただし研究計画では波長1940 nmで動作する光学系を開発するところを,研究費や備品資源の関係で波長1.04 μmに変更して開発を進めている.水分計の開発としては遠回りになっているが,FFCによる新しい共振器増幅吸収分光法の開発という観点では現時点で問題はないと考えている.一方で,FFC光学系を構築する中で高次モードのレーザーを容易に安定に蓄積できることを発見し,本研究による波及効果的な応用を見い出すことができた.
平成30年度も引き続き長1.04 μm帯での開発を進め,まずは二酸化炭素を試料にFFCを使った初の共振器増幅吸収分光を試みる.狭帯域FBG型バンドパスフィルターとFSR 10 GHz程度の共振器を組み合わせてシングルモードの連続動作FFC 光学系を開発する.対象試料を水分から二酸化炭素に変更する以外は実施計画書の通りに研究を進めることができる予定である.高フィネス共振器を用いたモード同期パルス動作の実現に関しても継続して開発を行う.
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms
巻: 402 ページ: 370-372
10.1016/j.nimb.2017.03.081