研究課題/領域番号 |
17K14125
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竪 直也 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (30466784)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 物理セキュリティ / 光セキュリティ / 個体認証・真贋判定 / プローブ顕微鏡 / FPGA / ナノフォトニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、紙幣や金券、クレジットカード等に付与する所定の人工物に対する個体認証・真贋認証について、革新的物理セキュリティ「ナノ光メトリクス」の実働システムの構築を目指し、その中で微小ゆらぎ現象を利用した非走査型プローブ顕微鏡の基本原理に基づき、実用化を念頭に置いた「コンパクトなナノ特徴量読み取りシステム」を開発し、反復的な原理検証実験を通してそのセキュリティ性能と実用性を明らかにすることを目的としている。本研究において新規に開発を行う同システムは、既存のプローブ顕微鏡システムにおける駆動系を対象物に対して高さ方向(z軸方向)のみに限定し、かつ微小プローブの先端と対象物間の距離を厳密に制御するための制御系とフィードバック系とを単一のモジュール上で一括実装することで、全構成を大幅に簡略化している点が重要である。特に前者については、元来対象物表面の精微な二次元画像を得るために開発された同システムをセキュリティ目的に特化した形で応用する上で本質的な方策である。 研究初年度となる本年度にまず初めに取り組むべき事項は、微小プローブとその挙動を制御するz軸ピエゾアクチュエータとで構成される駆動系を構築し、光励起により微小プローブと対象物との間で誘起される相互作用を介して出力される光学応答と分子間力に由来する信号をそれぞれ正しく検知する検出系を構築することであり、新規に導入したモジュール上で設計・構築した入出力インターフェースにより当該信号を正しく検知できることを実証した。また、同様に構築したフィードバック系により、検知された信号強度に対して設けた閾値に基づき、読み取られるセキュア情報の精度と安定性に大きく影響を及ぼす微小プローブと対象物との間の距離について正しく制御可能であることも併せて実証することに成功した。 なお、これらの成果に関しては、国内研究会にて2件の対外発表を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度となる本年度の達成目標は、開発を目指す「コンパクトなナノ特徴量読み取りシステム」において正しく機能する検出系を構築し、その動作を検証することであった。その達成に向け、当初の研究計画においては「A. 微小プローブとその挙動を制御するz軸ピエゾとで構成される駆動系の構築」、「B. 光学応答と分子間力に関する信号を検知する検出系の構築」、「C. 検知した信号を元に駆動系の挙動を制御するフィードバック系の構築」と目標を細分化し、段階的に取り組んできた。 事項Aに関しては、化学エッチング処理を用いてナノ寸法にまで先鋭化させた微小プローブを導入することが主項目であり、同案件に関しては同研究実施前から量産していたものをそのまま適用することで支障なく実現した。事項Bにおいては、検知対象とする光学応答と分子間力に関する信号を、それぞれ外部素子として光電子増倍管と水晶振動子とを介することで新規に導入したモジュール上において正しく検知することに成功した。事項Cにおいては、同モジュール上で設計・構築したフィードバック系を介し、事項Aにて導入した微小プローブのz軸高さを正しく制御できたことで達成した。結果、前項「実績の概要」にて記したとおり、A、B、C全ての事項について特筆すべき支障なくそれぞれ達成することに成功した。 一方で、それぞれの事項において実現した各系の動作検証に際して示された性能に関しては、定量評価の結果を明示するまでには未だ至っていない。また、同システムが実働的に機能するためには各系の同期的かつ連動的な動作は不可欠であるが、同案件についても未だ検証が成されていない状況である。 以上の事柄を総合的に鑑み、本年度に関して本研究は「概ね順調に進展している」と評価している。
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今後の研究の推進方策 |
前項「現在までの進捗状況」にて示したとおり、本年度に未達成であった同システム性能に関する定量評価と統合的な構築と動作確認は早急に取り組むべき案件である。同案件の可否はモジュールの構築内容に大きく依存するものであり、現状適切な設計により大きな支障なく達成できるものと考えている。 また、当初の研究計画における次年度の達成目標は、初年度にて構築した「コンパクトなナノ特徴量読み取りシステム」を用いて検知した光学応答と分子間力に関する信号から対象物に固有の特徴量を抽出するための後処理系をモジュール上に実装すること、および、得られた特徴量から個体認証という用途において十分なセキュリティ性能を示すことを定量的に実証するであった。前者に関しては、既に研究実施者がナノ特徴量の抽出原理について理論・実験両面において実証済みであり、同原理に基づき適切なアルゴリズムを構築し同システムに組み込むことで実行する予定である。後者に関しては、実地に即した専門的な知識を必要とするため研究協力者である横浜国立大学・松本勉グループの協力を仰ぐものとしており、同案件に関連して進めている議論を引き続き継続していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
一件の消耗品の購入に際し、本年度中の納入が間に合わなかったため。少額につき、翌年度分の使用計画については大きな変更はない。
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