本年度は、「金属ナノ粒子作製方法の確立と塗布技術の開発」に取り組んだ。前年度の結果から、金ナノロッドを購入し、その光学特性の測定を行った。光学スペクトル測定を行うために、顕微鏡を用いた顕微分光装置を構築した。その結果、プラズモン共鳴ピークが得られたものの、その共鳴スペクトル幅が非常にブロードであることが確認された。これは、金ナノロッドの形状不均一性による不均一広がりの影響が考えられる。この結果から、金ナノロッドの単純な塗布では、高性能なファノ共鳴を得ることは容易でないことが示唆された。 そこで、作製されたファノ共鳴メタマテリアルのQ値を向上させる手法の開発を行った。選択的に基板をエッチングすることで、プラズモン共鳴がより分析体の影響を受けやすくし、波長シフト量の増大が期待される。シリコン上に微細加工技術によりADBメタマテリアルを作製し、ICP-RIEを用いて、基板のシリコンのみをエッチングした。その結果、基板エッチングによって、感度(nm/RIU)が8.3倍、FOMが3.4倍に向上することがわかった。この技術は、金属ナノ構造を形成した後に、付加的に適用することで、簡便に性能の向上が見込める技術であり、幅広い光メタマテリアル、プラズモニック構造に適用可能である。 また、基板エッチング技術は、もともとスプリットリングと呼ばれる構造を簡便に3次元化するための構造として開発されたものである。そこで本研究では、ADB構造から大きさの異なる3次元スプリットリング構造を作製する技術の開発とその特性評価も行った。その結果、光の電場だけでなく、磁場によっても励起可能な双異方性(bi-anisotropic)なファノ共鳴を実現できることがわかった。これは、複雑な電磁応答を示す系においてもファノ共鳴が制御できることを示しており、メタマテリアルを構成する基本要素として重要な意味をもつ。
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