研究課題/領域番号 |
17K14131
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
近藤 崇博 学習院大学, 理学部, 助教 (30760277)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ラマン分光 / ナノ粒子 / 液相接触プラズマ / 大気圧プラズマ |
研究実績の概要 |
本研究はプラズマを金属塩水溶液に照射して行う金属ナノ粒子合成を対象とするものである。本プロセスではプラズマにより誘起される電子やラジカルがナノ粒子合成過程において重要な役割を担う。そのため本研究では、ラマン分光を用いて、プラズマにより生成される水溶液表面の電子やラジカルを診断し、それらが合成されるナノ粒子特性へ与える影響を明らかにする。 これまでプラズマを照射した液相表面を診断した例がいくつか報告されているが、いずれも装置構成が複雑であったり、測定対象とする粒子種によってレーザーの波長を変えなければならないといった欠点があった。一方、ラマン分光はラマン活性な粒子種であれば一度に検出でき、また、装置構成も簡便である。プラズマ液相界面の診断に汎用的に用いられている手法がない現状においては、簡便で多くの情報を取り出せることは高い利点がある。 本年度はまずシンプルな系として、純水にプラズマを照射する系を研究対象とした。ラマン分光にはレーザーを励起光とし、気液界面付近に集光することでラマンスペクトルを得た。放電にはガス流を伴う直流グロー放電を用い、水表面に照射した。得られたラマンスペクトルから、プラズマを照射したとき、水分子OH伸縮振動に起因するピークが減少するという知見が得られた。これは水分子の他分子への変換や蒸発などが原因として考えられる。このことから、水溶液を用いた場合、水分子と比較し溶質が高濃度となる反応場がプラズマにより形成されると予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始当初の実験は、容器に水溶液を入れ水溶液表面にレーザーを集光することでラマンスペクトルを得る装置構成で進めた。また、まずシンプルな系を評価するため金属塩水溶液ではなく純水を使用した。ラマン分光にはレーザーを励起光とし、気液界面に集光することでラマンスペクトルを得た。放電にはヘリウムガス流を伴う直流グロー放電を用い、水表面のレーザー集光点に照射し、ラマンスペクトルの変化を観測した。しかし、プラズマを照射した場合とそうでない場合でスペクトルの変化は観測されなかった。 そこで、水を液膜ノズルにより厚さ数百μm程度の液膜にし、同様の実験を行った。すると、水分子のOH伸縮振動に起因するピークがプラズマ照射時では低下する傾向がみられた。この傾向を明確にするため、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate: SDS)、0.1 mM水溶液を用いてSDSのCH伸縮振動ピークを基準に水のOH伸縮振動ピークの変化を調べた。その結果、SDSのCH伸縮振動に起因するピーク強度に対して水分子のOH伸縮振動に起因するピークはプラズマ照射有りでは低くなるという傾向が明らかになった。この傾向からプラズマの照射によって、SDSと比較し、水は化学反応による多分子への変換や蒸発などが起こりやすいものと予想される。 しかし、現状、計画当初想定していた、プラズマを作用させることにより生じる反応活性種などに由来するラマンシグナルや水和電子による水分子振動ピークのシフトなどを検出することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、水分子のOH伸縮振動に起因するピークはプラズマ照射有りでは低くなるという傾向が明らかになったが、プラズマを作用させることにより生じるラジカル種などに由来するピークや、水和電子による水分子振動ピークのシフトなどは、現状、検出できていない。この原因は主として現在用いている分光器の感度および波長分解能が低いためであると考えられる。そのため、微弱な信号の検出やスペクトルの細かい構造を評価するのは困難である。 この問題を解決するため、現在、より光検出感度の高いIntensified Charge Coupled Device (ICCD) 、光電子増倍管等を使用し、より詳細なラマンスペクトルを得るべく、実験構成の改良を行っている。 詳細なラマンスペクトルを得ることで、当初予定していた、金属塩水溶液表面におけるプラズマ照射による水和電子密度、ラジカル密度等の情報を得る。そして、得られたラマンスペクトルと量子化学計算等から金属ナノ粒子合成機構を明らかにしていく。また、随時、生成ナノ粒子の評価を行い、ナノ粒子特性と反応場パラメータ(電子、ラジカル密度等)との相関を明らかにし、最終的にナノ粒子特性の制御を目指す。
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