研究課題/領域番号 |
17K14144
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鈴木 良郎 東京工業大学, 工学院, 助教 (40631221)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ディープラーニング / 数値シミュレーション / マルチスケール解析 / 熱伝導問題解析 / 不均質材料 |
研究実績の概要 |
本研究目的は,人工ニューラルネットワーク(ANN)とマルチスケール数値解析シームレス・ドメイン法(SDM)を融合した全く新しい数値シミュレーション法を開発することである.本手法が確立されれば,従来手法と同様の高精度解をより低コストに算出することが期待できる上,適用に制約がなく原理上あらゆる物理現象の解析が可能となる. 平成28年度に,1次元の非線形定常熱伝導問題に提案法を適用し,提案法が真の温度分布と遜色ない高精度解を算出できた.このことから,ANNが離散化式を代替する解析が実現可能であることを確認した.しかし,提案法の2次元問題への適用可能性および従来法との計算コストの比較は未検証であった. 平成29年度は,提案法に用いるANNとして,画像認識能力に優れている畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を導入し,提案法を2次元の線形定常熱伝導問題に適用した.平成29年度に実施した数値実験により,CNNを導入した提案法は,ANNを使用しない従来のSDMとほぼ同等の解を算出し,さらに解析時間を短縮できることが分かった. また,CNNの学習に使用する損失関数(CNNの出力値と真の値の差を定義する関数)を変更することで,真の離散化式のデータを用いずにCNNを学習させる手法を考案した.これにより,差分法解析や有限要素解析のために高い計算コストを必要とする真の離散化式のデータの作成が不要となり,CNNの学習データの作成コストの低減を実現した. 以上の成果により,提案法が2次元の線形定常熱伝導問題を解析可能であることを実証し,さらに従来法の低コスト化に有用であることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,提案法(ANNを用いた非線形SDM)を1次元の非線形定常熱伝導問題に適用し,提案法が真の温度分布と遜色ない高精度解を算出できることを実証した.このことから,研究目的の1つである「提案法の解析原理の確立」を達成したと言える. 平成29年度は,2つ目の研究目的である「解析データに基づく提案法の精度・コスト検証」に着手した.具体的には,提案法に用いるANNとして画像認識能力に優れているCNNを導入し,提案法を2次元の線形定常熱伝導問題に適用した.また,数値実験により提案法がANNを使用しない従来のSDMとほぼ同等の解を算出し,さらに解析時間を短縮できることが分かった. 当初の平成29年度の計画であった「非線形連成問題や時刻歴問題を対象とした提案法による解析」は行うことができなかった.これは,提案法が高精度解を算出できない問題を解決するためのCNNの改善や,CNNの学習に必要な解析データの作成コストが大きいという問題を解決するための手法の考案および実装に時間を要したためである.しかし,非線形連成問題の一種である「熱伝導率が温度に依存して変化する物体の定常熱伝導問題」の提案法による解析の方法は既に考案済みであり,非線形連成問題を対象とした提案法による解析については早急に検証可能であると考えている. 以上により,三つの研究目的のうち1つは達成され,1つは達成可能の目処が立っているため,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,(1)非線形連成問題を対象とした提案法による解析の実施および性能評価,(2)時刻歴問題を対象とした提案法による解析の実施および性能評価,(3)ANNの改善による提案法の解析精度向上を実施する. (1)については,非線形連成問題の例として「熱伝導率が温度に依存して変化する物体の定常熱伝導問題」を対象とした提案法による解析を行う.「現在までの進捗状況」で述べたように,本問題の解析方法は既に考案済みである. (2)については,時刻歴問題の例として「非定常熱伝導問題」を対象とした提案法による解析を行う.提案法に用いるANNには時系列データを学習するために考案された再帰型ニューラルネットワーク(RNN)やLSTMネットワークが利用可能であると考えられる.(1)が達成された後に着手する. (3)については,(1)や(2)と同時並行で進めることとする.これは解析対象とする問題によって最適なANNの種類や構造が異なると考えられるためである.現在は数値実験を多数行うことにより最適なANNの構造についての知見を蓄積している最中であるが,現在の手法で精度向上が見込めない場合は「転移学習」を利用する.転移学習とは,あるタスクについて既に学習済のANNモデルを別のタスクに転用する(改変する)ことである.具体的にはILSVRC(世界的な大規模画像認識の競技会)で優勝したANNモデルを転移学習に利用することを考えている. 平成30年度以降の研究目的であった「実験データを学習したANNを離散化式とする解析の実施および性能評価」については延期し,上記の研究を行いたいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
・未使用額が発生した状況 29年度の研究成果(人工知能を用いたマルチスケール線形熱伝導解析)をまとめた英語論文を発表する予定であった.そのために英語論文の校正費,掲載費を合わせて20万円を計上していた.しかし,提案手法と既存の手法(既存のマルチスケール解析)との性能比較が完了した後に論文を執筆することにしたため,未使用額が生じた. ・次年度における未使用額の使途 提案手法と既存の手法との性能比較が完了した後に論文を執筆する.未使用額は英語論文の校正費と掲載費として使用したい.
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