研究実績の概要 |
今年度の研究によって、実簡約リー群の簡約型球部分群に対するカルタン分解を得ることができた。このカルタン分解は対称行列の直交行列による対角化の拡張になっており、E. Cartanによるリーマン対称空間に対するカルタン分解に始まる(1920年代)。その後、簡約型リー群の2つの対称部分群の組に対する両側剰余類という形(ただし、ここでは、少なくとも一方の対称部分群はコンパクトであるものとする)にM. Flensted-Jensen 氏(J. Funct. Anal. 30 (1978))、W. Rossmann 氏(Canad. J. Math. 31 (1979))、B. Hoogenboom 氏(CWI Tract, 5. Stichting Mathematisch Centrum, Amsterdam, (1984))、E. Heintze, R. Palais, C. Terng, G. Thorbergsson(Conf. Proc. Lecture Notes Geom. Topology, IV, 1995)の四氏、松木敏彦氏(数理解析研究所講究録 895 (1995)、J. Algebra 197 (1997))によって一般化されたが、この対称部分群は今年度の研究で扱った簡約型球部分群の特別な場合である。簡約型球部分群に対してカルタン分解が拡張できることは、小林俊行氏によって1995年の整数論サマースクールにおいて予想という形で提示されていた。本科学研究費を利用して2019年3月に九州大学伊都キャンパスで開催された2018年度表現論ワークショップに参加し、カルタン分解について研究発表を行った。同ワークショップには、カルタン分解について研究している笹木集夢氏も参加していたため、本研究の手法について議論を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2つの簡約型実球部分群に関する両側剰余類の研究や、複素簡約群の実形による複素球多様体への作用の可視性に関しては、このまま研究を続けていく。一方、球多様体上の球関数の研究については、最近のP. Delorme氏、F. Knop氏、B. Krotz氏、J. Kuit氏、E. Opdam氏、H. Schlichtkrull氏らの研究(Acta Math. 218, 2 (2017), arXiv:1711.08635 [math.RT], arXiv:1807.07541 [math.RT])を受けて、方向を修正し、リーマン対称空間上の球関数の性質を簡約型Gelfand対へと拡張することに取り組む。その手法としては、カルタン分解の研究で得られている幾何構造を利用して、対称空間上の結果に結びつけるというものを用いる。
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